プロセスの共有が共感につながり高付加価値を生みだす

競争優位・差別化
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結婚披露宴で涙する女性とはしゃぐ男性

結婚披露宴に出席すると、男性と女性でずいぶんと様子が違うなと思うことがあります。新婦側のほとんどの友人が涙ながらに感動している一方で、新郎側の友人達は祝い酒で酔いが回り楽しそうに盛り上がっている状況に出くわしたことがないでしょうか。

新婦がバージンロードに入ってくる前から、新婦側の友達がほぼ全員シクシク泣いているということは珍しくなく、あまりに皆がシクシク泣いているので、これは結婚披露宴ではなくむしろお葬式ではないかと、不謹慎ですが一瞬思うことがあります。

新婦の友人代表のスピーチのときにも、友人がスピーチができなくなるほど号泣するという光景も珍しくありません。

一方で、新郎側の友人は、パージンロードに新郎が入って来ると「ヨッ!色男!!」などと声を掛けることはあっても、涙ながらに新郎を見つめることはまずありません。スピーチのときも、新郎の恥ずかしい昔話を開陳して笑いをとることには一生懸命ですが、感極まって言葉に詰まるような者は見掛けたことがありません。

新人研修で泣く男性社員

これまでは、特に結婚披露宴での男女それぞれの様子から、涙もろい女性とおちゃらけた男性というステレオタイプ的に男女の違いをとらえることが多かったのですが、最近その認識をあらためる必要が出てきました。

毎年4月になると多くの企業で新入社員研修が盛んに行われていますが、研修中に泣く男性社員が増えているという話をよく耳にします。

きっと「地獄の13日間研修」みたいなことをしているに違いないと思い、研修内容を聞いてみると、特別過酷なものではないのです。

一般的な内容の研修で泣く理由が想像できないので、「その程度で泣いてどうする」と思ってしまうのですが、こういうことを言う人は「つめたい人」と決めつけられていくことになります。

仕事は理屈で割り切るか 仕事に感情を持ち込むか

合理性を重視して、「仕事に感情を持ち込むな」という経営者の方がたくさんいらっしゃいます。

しかし、仕事に感情を持ち込まない人は、いい商品を作ることも、その商品を売ることもできません。

とくにビジネス自体が、「誰かのニーズに応えること」から「誰かに価値を感じてもらうこと」へと大きく舵を切り始めているいま、感情はビジネスの原点になくてはならないものです。

そのことを考えるときに「結婚披露宴で泣く女性」と「新入社員研修で泣く男性社員」という2つの話は、とても大切なヒントを与えてくれます。

感情のキャパシティが小さな人が増えている

新人研修で感極まって涙している人たちは、「指導してくれた先輩たちに感謝します」と、表向きは言いながら、実のところは1ヶ月間の研修を乗り越えた自分自身に感動していると睨んでいます。

そんな感情のキャパシティが少なくて、これからどうするのだろうかと心配になります。

「人を感動させるためには、まず自分が感動できる人間になれ」という教えては正しいと思います。

でも、感情のキャパシティが小さい人は、自分がすぐに感動してしまうために、当然他の人も同じようなレベルで感動すると勝手に思い込む傾向があります。

だから、自分と同等の感情表現のない人を、つめたい人だと決めつけるのです。

感情の垂れ流しはしないこと。

人生において言えることですが、ビジネスにおいても当てはまります。

深い価値を創造し、深い感動を与えるためには、まず感情のキャパシティを大きくすることです。

そのために、自分の感情をむやみたやらたと垂れ流さずに、かみしめて生きていくことが、人としてもビジネスマンとして成長していくためにも必要です。

趣味と仕事の境目は目的の違いにある

話は変わりますが、趣味と仕事は違います。

とは言え、もともとその世界が好きで、趣味が高じて今はプロとしてのこだわりをもって仕事をしている人はたくさんいます。

プロスポーツ選手などは、ほとんどがそのスポーツ自体が好きな人であるはずです。

では、趣味と仕事の違いはどこにあるのでしょうか。

「下手の横好き」という言葉もありますが、趣味も仕事も上達することを目指している点は同じです。

趣味の楽しさとは、何も考えずボーッとしながら同じことを繰り返していても生まれません。

「できない」を「できる」に変える努力と工夫をするからこそ上達していきます。

これは、仕事でスキルアップしていくときと同じことです。

趣味も仕事も一見すると同じようなことをしていますが、経営者と社員を問わず、多くの人は「趣味は楽しいが、仕事はつらい」と感じています。

この「楽しい」と「つらい」の境目はどこにあるのでしょうか。

それは、「目的の違い」にあるのだと思います。

趣味の目的 = 結果を出すプロセス
仕事の目的 = 結果を出すことそのもの

人は、自分を楽しませるためには手を抜きません。

趣味でやるゴルフで、ティーショットが大きく曲がって崖下に落ちたとき、誰も見ていないことを確認して、二打目を手で投げてトラブルをリカバリーしたからといって楽しいしょうか。

自分自身で努力と工夫を重ねて、思い通りの成果が出たときの喜びの大きさを体験した人は、プロセスの苦労が結果の喜びを増幅させることを知っています。

それさえ知っていれば、あとは「自分を喜ばすために」という矢印の向きを「他人を喜ばすために」という方向へ変えさえすれば、趣味が仕事になる準備は整ったといえます。

感動をするために不可欠なプロセスの共有

プロセスに楽しさが溢れていたとしても、感動をすることとイコールにはなりません。

楽しいけれど感動しない人がいます。同じく会社があります。

その違いは、「もう一段、階段を登るために何を捨てるのかが具体的に見えているかどうか」にあると思います。

何かを極めるということは、それ以外のことをしないということでもあります。

何のために仕事をするのか、仕事を通してどういう自分を目指すのか。

そのためには何をして、何をしないのか。

そいうことを真剣に考え、目指す自分や会社を実現するために、いろいろな何かを捨てる覚悟がドンと感じられたときに、人は感動するのだと思います。

だから映画を観ていてぐっと胸にこみ上げる場面は、主人公が愛する家族や人を守るために、自らの人生を捨て命を賭す場面と決まっているのです。

でも、主人公とおぼしき男が悪漢に囲まれて「俺はどうなってもいい。家族だけには手を出すな」というシーンからいきなり映画が始まっても、何の感動も起きないでしょう。

なぜなら、そこにはプロセスの共有が何もないからです。

相手の思いや覚悟を感じるためには、その人とプロセスを共有することが大切です。

冒頭の結婚披露宴の話に戻ります。

私は男ですが、ほとんどの結婚披露宴の場で、新郎と新婦のうち新郎しか知らないことが多いのです。

披露宴の場に初対面の新婦を連れてこられて、この方と結婚しますと言われても「そうか、良かったね」としか言いようがありません。

特に男性の場合、友達に自分の恋愛話をすることはほとんどありません。ましては、痴話喧嘩の相談をすることなど皆無です。

つまり、結婚に至るまでのプロセスを共有していないのです。

一方、女性の場合は、普段から他に話がないのかというくらい友達同志の恋愛話で盛り上がり、プロセスを共有しています。

その中で、相手の男に対する思いの深さや、別れの危機、結婚を願う気持ち、結婚への覚悟などを友達同志で共有しているのです。

その結果として結婚式を迎えるので、涙が出るほど感動するというわけです。

価値を創造するビジネスに大切なこととは

ビジネスの仕組みを単純化すれば、つぎの2つに尽きます。

  • いい商品をつくること
  • その商品の価値を伝えること

いい商品をつくるためには、深いこだわり、長い思考過程、諦めずにトライし続けた商品化の努力などが不可欠です。

これまでの時代は、顧客のニーズに呼応した商品を供給することがメインでした。

したがって、商品の価値とは、事前に定義されている顧客ニーズにより良くより安く応えているという事実を示すことをもって伝えることができました。

つまり、カタログスペックとバリュー・フォア・マネーによって「出来映えの良さ」を伝えることで目的を達せられたのです。

しかし、モノ消費からコト消費、さらにはトキ消費やイミ消費がキーワードになるこれからの時代においては、自ら創造した価値を顧客に伝え共感を得る必要があります。

この場合、商品の価値とは、「出来映えの良さ」だけにあるわけではありません。

当の商品が形になるまでのプロセスにこそあるのです。

商品の価値を伝えるとは、そのプロセスを顧客と共有することによって初めて目的が達せられるのです。

ただし、プロセス自体がつぎのような薄っぺらいストーリーでは意味がありません。

なんか売れそうなものはないかと思っていたら、テレビで最近流行っているものが紹介されていたんです。

めっちゃイケてたんで、オレ流にアレンジ出来ないかと一晩寝ずに考えてプランを作りました。

コストと相談しながら中国の工場で製造したので、思ったとおりのものではないけど、性能と価格のバランスはいい商品です。

こんなプロセスは共有する意味がありません。

だからこそ、感情のキャパシティを高めて、自らの感動のレベルを高める必要があります。

併せて、自らのこだわりのために、何をするのかと同時に、何かをしないという捨てる覚悟が必要になるでしょう。

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