2つの大前提が失われたことで変化した競争優位獲得のための戦略思考とは

競争優位・差別化
競争優位・差別化
この記事は約6分で読めます。

20世紀までの経営における2つの基本的前提とは

昔のコンサルティング会社の中には、インダストリー・グループ(業界別グループ)という概念を導入しているところがありました。

最初からどこかのグループに振り分けられるのではなく、入社してからランダムに複数のインダストリー・グループのプロジェクトを経験しながら、2~3年の内にどこかのインダストリー・グループに所属するという運用が行われていることが多かったと記憶しています。

今でもインダストリー・グループという考え方は健在で、某外資系コンサルティング会社のサイトを見ると、業界別サービス一覧というページがあり、通信 エレクトロニクス・ハイテク メディア・エンターテイメント バンキング キャピタル・マーケット・・・と18のグループ分けがされていました。

昔はグループが数個しかなかったので、この20年の間にずいぶんと細分化が進んだことになります。

もちろん、業界という切り口以外に、経営の機能という切り口で提供サービスを分類する手法は昔からあります。

ビジネス戦略 テクノロジー戦略 オペレーション戦略 営業/顧客サービス 人材・組織管理 M&A戦略・・・などです。

いずれにしても、今なおコンサルティング会社では、業界別サービスという分類が重要なことは間違いありません。

私がコンサルタントのキャリアを歩みはじめたころ、経営戦略を立てる場合に2つの基本的前提があることを教わりました。

業界がもっとも重要な枠組みである

一つは、「業界がもっとも重要な枠組みである」ということです。

なぜなら、業界はそれほど変化がない安定した競争要因によって成り立っていると考えられていたからです。

競争要因を深く理解するためには、時間とエネルギーを投入して、業界をよく観察してみなさい。すると、ほかの決定を下すときにも使えそうな因果関係とか相関関係が見つかるはずだと。

したがって、戦略の力点は分析にありました。

つまり、業界はそこそこ安定しているという前提が信じられていたので、業界の動向を見極め、それに応じた戦略を構築する分析能力を身につければ、良い報酬を得ることができたのです。

今後5年間の社会・経済・業界の動向をある程度まで想定できるという前提があったからこそ、中期経営計画という名のものとに5ヶ年計画を立てるのが、全盛の時代でもあったのです。

一度確立された優位性は持続する

もう一つの前提は、一度確立された優位性は持続するということです。

ある業界で確固たる地位を築けば、企業はそうした優位性を中心に据えて、ヒト・モノ・カネといった経営資源を最適化すればよかったのです。

当時の優秀なビジネスマンの条件は、大組織の運営能力があり、業務効率を上げコストを削減しながら、既存の優位性を維持できることでした。

そして、戦略的事業単位(SBU)と呼ばれる強力な中核事業へ経営資源を集中的に振り向ける経営構造は、好業績をもたらす鍵でした。

ここでの前提は、持続する優位性を中心に置いて、組織や業務プロセスを最適化することだったのです。

しかし今日では、一つ目の前提であった「業界がもっとも重要な枠組みである」が、通用しなくなったのです。

消費者の財布の中味を業界を超えたライバルが奪い合う状況

「時代が変わった」と、多くの人が口にしますが、何がどう変わったのでしょうか。

答は一つではありませんが、間違いなく変わったことは、「業界内の競争が最大の脅威だという前提」です。

これまでの定義にしたがえば、もっとも強力なライバルは同業他社になります。

しかし、今となってはこの考え方は大変危険です。

多くの市場で、業界がほかの業界と競争し、同じ業界内でもビジネスモデルが別のビジネスモデルと競争し、思いよらないかった場所からまったく新しいカテゴリーが現れるという状況が増える一方です。

政府は、安倍首相の時代から携帯電話料金の引き下げをするよう何度もキャリア各社に指示をしていますが、政策の是非は別として、現代における競争を考えるときに良い材料を提供しています。

令和2年度版の『情報通信白書』によると、消費支出は減少傾向にありますが、通信費だけが増加傾向が続いています。
このことから分かるように、例えばアパレル業界が売上を伸ばしたいと考えるなら、同じ業界内の動きを見ているだけでは不十分です。

顧客は、「この服を買うか、あの服を買うか」を考えているだけではなく、「服を買うか、新型のiPhoneを買うかどうか」を考えているからです。

同じように、映画の世界も、映画制作会社の間で話題作をつくることにしのぎを削っているだけでは、明るい未来はないでしょう。

かつて映画の興行収入の敵は、レンタルビデオ店でしたが、技術革新に伴いNetflixやAmazonプライムビデオなどのインターネットを介した定額のストリーミング配信サービスも無視できません。

でも、それだけではまだ視野は狭いのです。

視野を広げて見るべきは、「休日の2時間を楽しく過ごそう」と考えたときに私たちが選択肢として考えることです。

具体的には、カラオケ、アイドルの劇場観覧、食べ放題ランチ・・・などの業界がまったく異なる娯楽が選択対象としてあがってくるはずです。

したがって、特定の業界だけにとらわれて自社の今後を展望していると、常に不意打ちにあう、足元をすくわれるという憂き目にあい続けます。

付け加えるなら、化粧品、エステ、美容整形、サプリメント、フィットネスなども異なる業界に分類されますが、生活者側の「美を追い求める」という視点で考えれば、選択肢として同列に並べられることになるはずです。

とは言うものの、業界という概念がまったく意味をなさなくなったわけではありません。

問題は、業界という大ざっぱなレベルを対象とした分析をすると、緻密さに欠けるため、意思決定を下すに値するレベルで実際に何が起きているのかが分からないのです。

事業戦略を立てる場合にも、業界という漠然としたレベルではなく、こうした絞り込んだレベルで考える必要があります。

あえてビジネスを戦争のアナロジーで語れば、これからの時代のビジネスは、特定のエリアで、特定の装備を使い、特定のライバルを倒すために行われる局地的な異種格闘技戦のイメージです。

これまでのビジネスにおける戦いが、業界という広大かつ固定されたエリアで行われていたとするなら、路上に即席で作られたリングにその場所が移ったとも言えます。

先ず特定の顧客が求める解決すべき課題(ニーズ)や欲求(ウォンツ)であり、それに応えるために各リングで異種格闘技戦が行われるのです。

この結果、今まで役立ってきた優位性への最大の脅威は、従来競合とされたいたものの周辺部(エッジ)やまったく思いも寄らない場所から生じることが多くなります。

つまり、予測が難しい経営環境になったのです。

脅威を受身にとらえるだけではなく、裏を返して機会を前向きに探索する場合も同じことです。

既存の業界という枠組みの中だけで新たな打ち手を考えても良案が出ない場合でも、潜在的な顧客の行動に焦点を当てて自社の強みを新たな文脈で再現すれば、業界を越えた市場を作り出すことで、新たな成長の機会を得る可能性も高まるのです。

これを機会に、これまでの業界というくくりを棄てた場合、自社の成長の機会と脅威がどこにあるかを一度考えてみてはいかがでしょうか。

シェアする
TAISHIをフォローする
経営メモ