デフレ状況下で値上げをするためのポイント

競争優位・差別化
競争優位・差別化
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消費財のうち消耗材(単用材)に属する外食産業やアパレル産業の多くは、デフレの影響を大きく受け価格競争に陥り低収益にあえいでいますが、以下のような共通した問題点を抱えています。

  • 思い切った特徴のある商品を投入するリスクをとるよりも、大当たりも大外れもしない無難な商品開発。
  • 顧客第一と口では言いながら、真の消費者理解をすることなく進められる商品開発。(小売サイドの声を反映させるのではなく、あくまでもメーカーサイドの商品開発/商品開発チームの男女・年齢構成が顧客層とかけ離れている)
  • 細かな機能的差異と漸進的なコスト削減効果を反映した商品を次々に投入するが新たな価値は創造されず、消費者から見ると無用に多い商品数と氾濫するブランド。
  • 製造と販売が両方ともシェア志向で、「値上げ」を拒否する強い傾向。

こうした経営志向が、さらに物価が上がらないデフレ状態を誘発し加速することに加担しています。

外部要因であるデフレを言い訳に付加価値向上を怠る日本企業

デフレ(デフレーション)とは、物価が継続的に下落していく経済状況を意味しますが、過去20年以上に渡ってデフレだと言われている日本の物価下落状況は具体的にどの程度のものなのでしょうか。

1998年からの15年間で見ると、消費者物価指数が年平均0.3%の割合で下がり続け、2013年までに約4%下落しています。

つまり、15年間で4%「しか」物価は下がっていないのです。

本当のデフレとは、1929年から始まったアメリカの大恐慌時代のように、たった4年間で、年率で最大10%も下落するような状況を指します。

つまり、経営者がつい口にしたがる「デフレで値段が厳しくてね」という言葉は単なる主観的な言い訳でしかないことになります。

このことは、ドイツのサイモン・クーチャー&パートナーズというコンサルティング会社が、2012年に日本を含む23ヶ国24業種を対象として、価格についてのオンライン調査をした結果によっても照明されています。

その結果によると、日本の企業は、世界のどの企業よりも、市場での価格競争が厳しいと強く感じているようです。

<日本企業の回答結果>

自社が属している業界で価格競争が起きている YES 90% 以上
自社も価格競争に参加している YES 75% 以上
その価格競争は他社が仕掛けた YES 94%  
その価格競争は自社から仕掛けた YES 2%  
過去1年間で値上げを実行した YES 32%  
過去1年間で値上げを一度も検討しなかった YES 62%  

2012年は今よりもデフレマインドが強い時期だったので、新たに調査をすれば多少数字は改善されるとは思いますが、実に90%以上の企業が業界に価格競争があり、75%以上が自社もその競争に参加していると答えている結果が際立っています。

ちなみに、欧米企業の回答は、「そもそも価格競争などない」としている企業が30%以上あり、日本では75%以上だった「自社も価格競争に参加している」と答えた割合は、50%以下です。

そして、日本企業は「過去1年間で値上げを実行した」が32%ですが、これは23ヶ国中最低の数値です。おまけに「過去1年間で値上げを1度も検討しなかった」割合は62%で、こちらは23ヶ国中最高の数値です。

世界一価格競争が厳しい市場だと思っていながら、その価格競争は、ほぼ100%自分から仕掛けたのではなく、競合他社が仕掛けてきたと思っているところも見逃せません。

したがって「値下げ」は頻繁にするけれど、それは戦略的打ち手ではなく、事故に巻き込まれたという被害者意識で行っている受身の追随策でしかないことになります。

日本人的マインドが値上げをするハードルになっている

日本企業は、業界を横にらみしながら追随的な値下げは頻繁にするけれど、戦略的な値上げを自主的に行うことが少ないという傾向を持っていることが分かりましたが、なぜ値上げを躊躇するのでしょうか。

値上げをする場合、闇雲に値を吊り上げればいいということではありません。それに見合う価値を付加するのは当然です。

そして、この付加価値という話が出てくると、値上げは口で言うほど簡単なことではなくなるのです。

なぜなら、日本の企業多くは提供している商品やサービスに、ライバル社と比べて差別化された価値があるとは思っていても、自信を持って主張しないからです。

日本人的美徳である謙虚を身に付けていると言えば聞こえが良いですが、実は自信たっぷりに主張することに慣れていないのです。

反対に、人知れず無駄を省いてコストを削減することにかけては、特に製造業において、日本は世界一だと言って間違いがありません。

コストを削減する作業は、下請けや社員が一丸となって無駄を省く、内向きの活動です。

ところが、価格については、この製品やサービスの価格は価値に見合っていると、消費者にメッセージングする活動が不得意な日本企業が多い。

いかにして相手の心に入り込んで、その意思決定に影響を与えることが出来るか、つまり身内ではない他人とのコミュニケーションが不得意だという日本人の弱みが出ているのです。

利益よりリスクに敏感な心理バイアスも値上げを躊躇わせる

とは言うものの、戦略とは名ばかりの受身の追随策しか打てない経営者が、不景気でしかもデフレの環境下で、価格の引き上げを行うという意思決定を合理的理由だけで行うことは難しいでしょう。

なぜなら、人間は意思決定において、それぞれの選択肢の持つ利益よりもリスクの方により過敏になる傾向があるからです。

仮にハイリターンであったとしても、同時にハイリスクである場合がほとんどなので、値上げという決断をするときに、そのリスクを引き受ける覚悟とか勇気が経営者に必要になります。ローリスク&ハイリータンなことなら簡単に決められますが、実際にはそんな選択肢はあり得ません。

言い替えれば、その勇気がない経営者は、値上という決断が出来ずに、いつまでもコスト削減と価格競争に明け暮れるしかないことになります。

商品に価値があるならば消費者が認知する努力が必要

以下の記事で利益の構造について述べましたが、自分のビジネスを[売上高]-([原価]+[経費])=[利益]だと捉えている経営者は、他社との価格競争に巻き込まれ、利益を削って価格を下げることになります。

一方で、[利益] = [効率利益] + [中核的利益=価値]と考えてビジネスをすれば、価格競争に巻き込まれることは少なくなるはずです。

企業は顧客に対して色々なメッセージを発しますが、価格もその一つです。

もし価格に価値が含まれていなければ、企業が顧客へ送るメッセージは、「価格が安い」という価格訴求だけの内容になりますが、何らかの価値が含まれていると考えるなら、自ずとそれを強調するメッセージを発信することができるはずです。

その意味で、「安くしなければ売れない」という発言を、企業経営者は軽々としてはいけません。

より正確に「自社の商品・サービスは、価値がない、あるいは価値が低いので、安くしなければ売れない」と言わなければなりません。このように正しく表現することで、はじめて問題の所在がどこにあるのかハッキリします。

そうではなく、「自社商品には十分価値があると信じているが、消費者が認知する価値が低いので、安くしなければ売れない」という状況ならば、やるべきことは言い訳ではなく、消費者が正しく認知してくれるようにコミュニケーションについての改善や改良をすることでしょう。

値上げを実施した経験がない経営者に問われる勇気

ただし、失われた20年の間に、価格を下げ続けているだけで価格を上げる経験をした経営者が数少ないのは、先ほどの調査結果を見ても明らかです。

だから、価格改定のタイミングとか上げ幅とか、価格を上げるために必要な実務的なノウハウを持っている経営陣が社内にいない可能性が高いのです。

そして、値上げすることが売上高にどれだけの影響を及ぼすのか、そのリスクをとる経験をした経営者も同時に少ないことになります。

そこに、値上げをした結果、平均客単価は上がったけれど客数が減少して売上減となった他社の実例が目に入ると、「やっぱり値上げは怖いな」という思いが強くなることがあるでしょう。

でも、ポストデフレ時代の経営者が戦略的に考えるべきことの一つは「値上げ」についてです。 そして、値上げをする経営者に必要な資質とは、知性でも経験でもなく浪花節ですが「勇気」ではないでしょうか。

その勇気を支えるものは、精神的強靱さではなく、顧客に提供する自社の商品やサービスへの信念と信頼でなければなりません。

さて、これを機会に自社の商品やサービスの価値とは何か、それが消費者に伝わっているのかを再検証してみてください。

そのうえで、価値あるモノが価格競争に晒されているならば、値上げというアンタッチャブルな領域へ、勇気をもって一歩足を踏み出してみることをお勧めします。

日本の消耗材産業が抱える課題とは

消費財とは何かを明らかにするために、以下の定義を引用します。

消費財(consumption goods)
人間の欲望を直接に満足させる財をいう。消費財には食料・燃料などのように一度の使用で消費されてしまう単用財(消耗財)と、自動車・ステレオなどのように繰り返して使用される耐久消費財との区別がある。生産財が生産過程において使用され中間財とよばれるのに対して、最終的に消費を目的とする最終生産物である消費財は最終財とよばれる。この生産財と消費財の区分は、財の属性による区分ではないので、同じ財でも、たとえば石油などのように、工場で燃料や原料として使われれば生産財となり、家庭で暖房用に使われれば消費財となる。消費財の性質をもつサービスに教育・医療などのサービスがある。[日本百科全書 鈴木博夫]

消費財のうち消耗材(単用材)に属する外食産業やアパレル産業の多くは、デフレの影響を大きく受け価格競争に陥り低収益にあえいでいますが、以下のような共通した問題点を抱えています。

  • 思い切った特徴のある商品を投入するリスクをとるよりも、大当たりも大外れもしない無難な商品開発。
  • 顧客第一と口では言いながら、真の消費者理解をすることなく進められる商品開発。(小売サイドの声を反映させるのではなく、あくまでもメーカーサイドの商品開発/商品開発チームの男女・年齢構成が顧客層とかけ離れている)
  • 細かな機能的差異と漸進的なコスト削減効果を反映した商品を次々に投入するが新たな価値は創造されず、消費者から見ると無用に多い商品数と氾濫するブランド。
  • 製造と販売が両方ともシェア志向で、「値上げ」を拒否する強い傾向。

こうした経営志向が、さらに物価が上がらないデフレ状態を誘発し加速することに加担しています。

外部要因であるデフレを言い訳に付加価値向上を怠る日本企業

デフレ(デフレーション)とは、物価が継続的に下落していく経済状況を意味しますが、過去20年以上に渡ってデフレだと言われている日本の物価下落状況は具体的にどの程度のものなのでしょうか。

1998年からの15年間で見ると、消費者物価指数が年平均0.3%の割合で下がり続け、2013年までに約4%下落しています。

つまり、15年間で4%「しか」物価は下がっていないのです。

本当のデフレとは、1929年から始まったアメリカの大恐慌時代のように、たった4年間で、年率で最大10%も下落するような状況を指します。

つまり、経営者がつい口にしたがる「デフレで値段が厳しくてね」という言葉は単なる主観的な言い訳でしかないことになります。

このことは、ドイツのサイモン・クーチャー&パートナーズというコンサルティング会社が、2012年に日本を含む23ヶ国24業種を対象として、価格についてのオンライン調査をした結果によっても照明されています。

その結果によると、日本の企業は、世界のどの企業よりも、市場での価格競争が厳しいと強く感じているようです。

<日本企業の回答結果>

自社が属している業界で価格競争が起きている YES 90% 以上
自社も価格競争に参加している YES 75% 以上
その価格競争は他社が仕掛けた YES 94%  
その価格競争は自社から仕掛けた YES 2%  
過去1年間で値上げを実行した YES 32%  
過去1年間で値上げを一度も検討しなかった YES 62%  

2012年は今よりもデフレマインドが強い時期だったので、新たに調査をすれば多少数字は改善されるとは思いますが、実に90%以上の企業が業界に価格競争があり、75%以上が自社もその競争に参加していると答えている結果が際立っています。

ちなみに、欧米企業の回答は、「そもそも価格競争などない」としている企業が30%以上あり、日本では75%以上だった「自社も価格競争に参加している」と答えた割合は、50%以下です。

そして、日本企業は「過去1年間で値上げを実行した」が32%ですが、これは23ヶ国中最低の数値です。おまけに「過去1年間で値上げを1度も検討しなかった」割合は62%で、こちらは23ヶ国中最高の数値です。

世界一価格競争が厳しい市場だと思っていながら、その価格競争は、ほぼ100%自分から仕掛けたのではなく、競合他社が仕掛けてきたと思っているところも見逃せません。

したがって「値下げ」は頻繁にするけれど、それは戦略的打ち手ではなく、事故に巻き込まれたという被害者意識で行っている受身の追随策でしかないことになります。

日本人的マインドが値上げをするハードルになっている

日本企業は、業界を横にらみしながら追随的な値下げは頻繁にするけれど、戦略的な値上げを自主的に行うことが少ないという傾向を持っていることが分かりましたが、なぜ値上げを躊躇するのでしょうか。

値上げをする場合、闇雲に値を吊り上げればいいということではありません。それに見合う価値を付加するのは当然です。

そして、この付加価値という話が出てくると、値上げは口で言うほど簡単なことではなくなるのです。

なぜなら、日本の企業多くは提供している商品やサービスに、ライバル社と比べて差別化された価値があるとは思っていても、自信を持って主張しないからです。

日本人的美徳である謙虚を身に付けていると言えば聞こえが良いですが、実は自信たっぷりに主張することに慣れていないのです。

反対に、人知れず無駄を省いてコストを削減することにかけては、特に製造業において、日本は世界一だと言って間違いがありません。

コストを削減する作業は、下請けや社員が一丸となって無駄を省く、内向きの活動です。

ところが、価格については、この製品やサービスの価格は価値に見合っていると、消費者にメッセージングする活動が不得意な日本企業が多い。

いかにして相手の心に入り込んで、その意思決定に影響を与えることが出来るか、つまり身内ではない他人とのコミュニケーションが不得意だという日本人の弱みが出ているのです。

利益よりリスクに敏感な心理バイアスも値上げを躊躇わせる

とは言うものの、戦略とは名ばかりの受身の追随策しか打てない経営者が、不景気でしかもデフレの環境下で、価格の引き上げを行うという意思決定を合理的理由だけで行うことは難しいでしょう。

なぜなら、人間は意思決定において、それぞれの選択肢の持つ利益よりもリスクの方により過敏になる傾向があるからです。

仮にハイリターンであったとしても、同時にハイリスクである場合がほとんどなので、値上げという決断をするときに、そのリスクを引き受ける覚悟とか勇気が経営者に必要になります。ローリスク&ハイリータンなことなら簡単に決められますが、実際にはそんな選択肢はあり得ません。

言い替えれば、その勇気がない経営者は、値上という決断が出来ずに、いつまでもコスト削減と価格競争に明け暮れるしかないことになります。

商品に価値があるならば消費者が認知する努力が必要

以下の記事で利益の構造について述べましたが、自分のビジネスを[売上高]-([原価]+[経費])=[利益]だと捉えている経営者は、他社との価格競争に巻き込まれ、利益を削って価格を下げることになります。

一方で、[利益] = [効率利益] + [中核的利益=価値]と考えてビジネスをすれば、価格競争に巻き込まれることは少なくなるはずです。

企業は顧客に対して色々なメッセージを発しますが、価格もその一つです。

もし価格に価値が含まれていなければ、企業が顧客へ送るメッセージは、「価格が安い」という価格訴求だけの内容になりますが、何らかの価値が含まれていると考えるなら、自ずとそれを強調するメッセージを発信することができるはずです。

その意味で、「安くしなければ売れない」という発言を、企業経営者は軽々としてはいけません。

より正確に「自社の商品・サービスは、価値がない、あるいは価値が低いので、安くしなければ売れない」と言わなければなりません。このように正しく表現することで、はじめて問題の所在がどこにあるのかハッキリします。

そうではなく、「自社商品には十分価値があると信じているが、消費者が認知する価値が低いので、安くしなければ売れない」という状況ならば、やるべきことは言い訳ではなく、消費者が正しく認知してくれるようにコミュニケーションについての改善や改良をすることでしょう。

値上げを実施した経験がない経営者に問われる勇気

ただし、失われた20年の間に、価格を下げ続けているだけで価格を上げる経験をした経営者が数少ないのは、先ほどの調査結果を見ても明らかです。

だから、価格改定のタイミングとか上げ幅とか、価格を上げるために必要な実務的なノウハウを持っている経営陣が社内にいない可能性が高いのです。

そして、値上げすることが売上高にどれだけの影響を及ぼすのか、そのリスクをとる経験をした経営者も同時に少ないことになります。

そこに、値上げをした結果、平均客単価は上がったけれど客数が減少して売上減となった他社の実例が目に入ると、「やっぱり値上げは怖いな」という思いが強くなることがあるでしょう。

でも、ポストデフレ時代の経営者が戦略的に考えるべきことの一つは「値上げ」についてです。 そして、値上げをする経営者に必要な資質とは、知性でも経験でもなく浪花節ですが「勇気」ではないでしょうか。

その勇気を支えるものは、精神的強靱さではなく、顧客に提供する自社の商品やサービスへの信念と信頼でなければなりません。

さて、これを機会に自社の商品やサービスの価値とは何か、それが消費者に伝わっているのかを再検証してみてください。

そのうえで、価値あるモノが価格競争に晒されているならば、値上げというアンタッチャブルな領域へ、勇気をもって一歩足を踏み出してみることをお勧めします。

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