「負けない」ではなく「勝つ」を考えなければ出来ない差別化

競争優位・差別化
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勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」

プロ野球の名監督とし活躍された故野村克也氏は、数多くの名語録を残したことでも有名です。その代表が『勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし』という言葉です。

この言葉は、肥後国平戸藩第九代藩主松浦静山に源がありますが、「勝つときにはたまたま勝つことがあるけれど、たまたま負けることはない。負けるときには負けるだけの理由がある」ということを意味しています。

だからこそ、負けた原因を追究して負け数を減らしたり、負ける原因が発生する可能性を下げていくことが、安定した勝ち星や勝率につながるということに繋がります。

自分らが努力して改善できるものに集中して、運不運に左右されないようにする。これはスポーツに限らず、あらゆるジャンルの仕事に通ずる真理です。

しかし、この真理を間違えて理解している経営者に出会うことが多いのです。

その原因は、スポーツとビジネスの根本的な違いに気付いていないからです。

相手が明確かどうかにスポーツとビジネスの戦い方の違いがある

スポーツとビジネスの最大の違いは「勝ちかた」にあります。

スポーツで勝つためには、「不思議の負け」がない以上、負けた原因を徹底的に分析してその原因を取り除くことが必要です。

負ける理由を減らせば勝ちにつながる。これがスポーツにおける戦略思考です。

しかし、この考え方をそのままビジネスに当てはめてはいけません。

ビジネスとスポーツの決定的な違いは、相手が決まっているかどうかにあります。スポーツは相手チームとの一対一の勝負だから、相手の負けがイコール自分たちの勝利になる。

だから「不思議の勝ち(=相手の負け)」があることになりますが、ビジネスの世界では同じことが起きるとは限りません。

ビジネスでは敵失が自分の勝利につながるわけではない

ビジネスでは、隣の店に閑古鳥が鳴いているからといって、自分の店が繁盛するわけではありません。

繁盛するには繁盛する理由、選ばれる理由、つまり勝つ理由が必要なのです。

負けなければ勝つのがスポーツ。しかし負けなくても潰れることがあるのが企業。そもそも勝ちかたが違います。

それにも関わらず、売れない理由を減らしていけば、もっと売れるようになると考えている経営者は多い。

この考え方は、市場占拠率が独占的に高い大企業や、特定の地域において極端に競合が少ない中小企業では有効な戦略になることはあります。

離島で二軒しかない食品店のうち一店が潰れたら、顧客は残った店へ行くしかない。顧客に選択肢が少ないときには、負けない経営が勝つ経営となります。

しかし、いまはまったく状況が異なる。現在の日本においては、あらゆるビジネスの分野で顧客側の選択肢は溢れかえっています。

もちろん、マイナス・ポイントを潰すことにまったく意味がないとは言いません。顧客がだれ一人として望まないことがあるなら、それは欠点として修正する必要があります。

だが、誰かにとってのマイナスが、他の人にとってもマイナスだとは限りません。

「差別化されない」ための戦略は悪手だ

「中期経営計画」の策定を行っている企業が数多くあります。

ところが、5ヶ年の中期経営計画策定後、1年半もすると全面的な計画の見直しを行わざるを得なくなる企業は少なくありません。

その理由は、日本企業の経営会議で「戦略」という言葉が使われる瞬間に象徴されています。

多くの場合、「戦略」が議論されるのは、「ライバル企業が、こう動いた。さて当社はどうするか?」という文脈でなされることが多いのです。

もちろん、こうした議論は、競合他社の戦略的な打ち手に対する「対抗戦略」をどう打つかという視点で議論されることもありますが、多くの日本企業の場合、「対抗戦略」ではなく「追随戦略」とでも呼ぶべきものになってしまっています。

言葉を変えれば、無意識に「ライバル企業に置いていかれないために、どうすればよいのか?」と発想してしまう。そして、本能的にライバル企業の打ち手の物まねをしてしまう。

追随戦略をベースとした経営計画を策定している限り、戦略の前提である相手の動きがますます早くなっている分、経営計画の寿命は短くなるのは当然です。

「選ばれない理由」より「選ばれる理由」が重要

それでも、日本経済全体が右肩上がりで成長している間は、追随戦略を採用してもそれなりの成果を得ることができました。

しかし、低成長を前提としたこれからの時代においては、真の意味での「差別化戦略」とさらにその上をいく「独占戦略」を打ち立てて実行する経営しか生き残れません。

マイナス点を改善した結果「付き合いたくない会社」とは思われなくても、「付き合いたい会社」にはなれません。

嫌われないための努力と、好かれるための努力はまったく別物。

嫌われないための経営に徹した結果、誰からも好かれない経営に成ってしまっている会社は意外なほど多いのです。

そのためには、まず中核的な利益の源泉を明確にする必要があります。

その後、競合他社に対して受身で反応するためではなく、「主体的に戦略を不断に見直す経営能力」と「変化した戦略に迅速かつ柔軟に適応可能な企業体」を築き上げていきます。

「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」の一歩先をいく「勝ちに不思議の勝ちなし、負けに不思議の負けなし」を経営で実現したいものです。

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