戦略以前にアイデアや構想のスジの良さが起業や新規事業の成否を決める

経営脳のトレーニング
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世の中に溢れる「戦略」というコトバ

「戦略」という言葉が、この21世紀に入って一気にポピュラーになりました。

就職戦略、婚活戦略、子育て戦略、終活戦略・・・

人生の各イベントを首尾よく乗り切るために必要なものは、戦略であるという風潮です。

戦略という用語は、軍事用語を源として、その後ビジネスの世界で広まり、ついに生活にまで入り込んで来たのです。

当然ビジネスの世界では、より一層戦略という用語が乱れ飛んでいます。

営業戦略、人事戦略、財務戦略、Web戦略、経営戦略・・・

ビジネスの世界では、戦略という用語は外資系コンサルティング会社が導入し、大企業で広まり、その後中小企業へも浸透していきました。

だから中小企業においても、自社を客観視して、戦略不在を嘆く経営者が世の中にはたくさんいます。

同時に、ビジネスの成功に不可欠なものは優れた戦略であると考えている経営者もたくさんいます。

そうした経営者の心理に応えるように、外部の専門家達も「御社が導入すべきは、〇〇戦略です」と囁きかけてきます。

でも本当に必要なものは戦略なのでしょうか。

人生においてもビジネスにおいても、戦略という魔法の言葉が広まり過ぎた結果、目線がズレることで、もっと大切なことを見落とすという愚を犯しています。

その結果、戦略を駆使すればするほど、望んだ通りの成果を得られという事態が増えているのです。

大企業と中小企業の違いは事業に取り組む動機とスタート地点にある

大企業と中小企業は違う。

この命題に異を唱える人は少ないはずです。

では具体的に、大企業と中小企業との間には、どのような違いがあるのでしょうか。

ただし、ここで考えたいのは、資本金額とか従業員数といった定量的に示される違いではなく、定性的な違いについてです。

正解のある問いではないので、いろいろと考え方はあると思います。

その一つとして、事業に取り組む動機とスタート地点に違いがあります。

創業者や中小企業経営者が、事業を考えるとき、先ずは何らかのひらめきやアイデアが必ずあります。

もちろん、中小企業の社長が、何のひらめきもアイデアもなしに新規事業をしなければならないと、考えるときはあります。

でもそれは、本業が無為無策のままに衰退の一途を辿り、止むに止まれず売上を確保するための悪あがきという場合がほとんどです。当然、そんな泥縄な考え方では、新規事業が上手く起ち上がることはありません。

一方で、大企業は業務として事業開発の担当者がいるので、仕事として役割を振られた以上、最初にアイデアがあろうがなかろうが、職務として取り組むしかありません。

むしろ、そもそも企画担当者レベルで構想やビジョンなど持ちようがないと言った方が正確かもしれません。

大企業の場合、少しでも新規事業を生み出したいという会社側の勝手な都合によって、「起業家精神を持つ人材が欲しい」とか「社内ベンチャーで組織を活性化する」などと熱弁している経営者を多々見受けます。

でも、そもそも大企業において、起業とか創業などという業務自体が存在するはずがありません。

大企業で行われていることは、事業に対する投資業務であって、自らの構想やアイデアをビジネスによってマネタイズしようとする起業とは、全くもって似て非なる行為です。

新規事業担当者が真剣に起業したいのなら、会社を辞めるのが筋ですが、サラリーマンと起業家を比べてみれば、リスクの大きさという点で比較しようがないくらい後者が不利です。

ビジネスとして、どちらの心意気が高いかとうかという問題ではなく、大企業と中小企業の間には、起業においてこのような大きな違いがあることを認識する必要があります。

社長個人の属人的資源が成功を左右する中小企業

結果的に中小企業の場合、社長の個人的なこだわりや唯一無二の人間性で勝負をしている会社ほど強いと言えます。

もちろん中には、社長の個人的な色を表に出さない経営をしている会社もありますが、そういう会社の場合、運が良ければ一度は好調の波に乗ることがありますが、結局は長続きせずに淘汰されていきます。

中小企業の場合、いくつもの波を乗り越えて事業を継続していくためには、社長の持つ属人的な資源が不可欠なのです。

一方で、大企業の場合、当初は確固たる信念や秀逸なビジョンがないにも関わらず、後付けでいくらでも作り上げ、資金力にものを言わせて市場を攻略することが可能です。

つまり、企業トップの個人的な資質に頼らなくても、投資業務を延長する形で事業を展開できるところに大企業の強さがあります。

いざとなれば、ビジョンでも戦略でも外部からカネで調達したり開発したりできるのですから。

戦略は「答え」ではなく「ツール」に過ぎない

新規事業の成功のためには、戦略が必要だと考えている経営者は多いはずです。

ところが、「戦略とは何か?」について、きちんとした定見を持っている経営者が少ないのも事実です。

戦略とは何かについて語ることは、間口が広くなり過ぎるので、戦略の効用という点からのみ、今回はアプローチします。

戦略とは、新規事業の保険として大きな機能を果たします。

それは、可能性のない選択肢を捨てるために役立つからです。

何を捨て、何を採用するかという意思決定において、戦略的な視点からの判断が意味を成すことが多いのです。

戦略的な思考を経ずに事業に踏み切るのは危険なので、戦略はテストツールとして活用すべきものです。

だから、戦略は「解」だと思っている人が多いのですが、厳密に言えば「ツール」に過ぎません。

つまり、戦略は新規事業についてのHowあるいはWhichについて役立つことはあっても、WhatまたはWhyに対する答を与えてはくれません。

戦略以前に重要なアイデアや構想の筋の良さ

新規事業においての必要条件は、戦略ではなく根本的なアイデアであり構想なのです。

さらに但書きを付けると、どんなコンセプトでも良いという訳ではなく、自社の強みをさらに深耕した「極み」を活かすこと資する、という条件も外してはなりません。

しかし前段で述べたように、大企業の場合は、カネの力でこの必要条件を軽々とクリアして来ます。

もともと、特定の個人が持つ何らの思い入れが無くても、市場を探し顧客を探し、ニーズやウォンツを設定してしまうことが可能なのです。

結果的に、後付けの開発ストーリーが、まんまと美談として仕立てられて消費者に対して届けられます。

それでも大企業が事業投資の失敗をするケースが後を絶たないことは、日々のニュースを見れば容易に分かることです。

大企業においてすら、ビジネスは戦略的なコンセプトやフレームワークで処理すれば上手く行くに違いないという誤解があることが、その原因です。

戦略云々よりも、自社の「やりたいこと」「できること」と顧客のニーズやウォンツの究明を適切に行うことの方が、よっぽど重要です。

世の中に溢れているノイズを除去して、自社と顧客を結び付ける道筋をきちんと設定できれば、戦略コンセプトや戦術論など振り回さなくても一定の成果を上げることは可能です。

世の中の多くの戦略は戦術に過ぎない

「わが社には戦略がない」と嘆いている経営者はたくさんいますが、そもそも多くの事業投資は、戦略の有無とはあまり関係のない次元で既に失敗しているのです。

ましてや、多くの中小企業は有り余るカネがある訳ではないので、大企業と同じ規模でマス調査や分析という手法を駆使して、「何をしたらいいか」の答え探しをする余力はありません。

そういう中小企業の懐具合を知ってか知らずか、中小企業を支援する専門家の方も、特定の「何か」について「どうやるか」というノウハウを提供することに留まっている場合がほとんどです。

さらに言うと、戦略と称されているもののほとんどは戦術に過ぎません。

戦略と言うと何となく頭が良さそうでウケも良くなるので、価格戦略とか営業戦略とか財務戦略と名付けていることが多いのですが、よくよく見ると大部分はテクニックであったり成功指針なので、本来は戦略とは呼べません。

簡単に言えば、他の会社で大成功したやり方や目新しく見えるやり方を、戦略と称して売り込んでいます。

口さがない言い方になりますが、コンサルタントの使うテクニックなんて、どうせ誰でもカネさえ払えば買える程度のものに過ぎません。

自社のこだわり・信念・カルチャーとは何かが明確か?

だから中小企業において、重要なことは、戦略から入るのではなく、非売品である自社のユニークな企業文化、こだわり、信念をクリアカットに描き出すことに真っ先に注力すべきです。

実際のところ、その肝の部分が曖昧模糊としたまま、現状に流されたり、一念発起して新規事業の起ち上げを考えている中小企業経営者が多いというのが実感です。

現在の事業を磨き上げるにしろ新規事業を起ち上げるにしろ、戦略以前に経営者として独自のアイデアや構想を持っているでしょうか。

もし今現在、そのような種火がないなら、どうしたら次世代に繋がるビジネスの萌芽を発見できるかについて、これを機会に考えてみてはいかがでしょうか。

そして仮に外部の専門家を活用するなら、見せかけの戦略の導入をするためではなく、先ずは「極み」の明確化と、それを顧客へと繋げる導線探しを真っ先に行うことを勧めます。

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