倒産する会社が数年前から示しはじめる2つの兆候

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倒産する会社の兆候

「倒産する会社の兆候」というキーワードで検索をすると、たくさんのサイトがヒットしますが、似たり寄ったりの内容が書かれています。

役員が辞める、経理担当者が辞める、社長が社内にいない日が増える・・・

こうした兆候は、末期症状を示しているため、売掛金がある納入会社が取りっぱぐれがないように、早目に手を引くという判断には役立つかもしれませんが、経営者が倒産への第一歩を踏み出しているかどうかをセルフチェックするためには、まったく役立ちません。

会社がつまずく最初の原因とは

会社がつまずく最初の原因は、ほとんどが倒産とか事業撤退という最終局面を迎える何年も前に発生しています。ここでは、特に重要な2つの兆候についてとりあげてみます。

フィロソフィ(理念)の喪失

タカタがエアバッグのリコール問題を大きくした結果、民事再生手続きを申し立てる事態に陥りました。その原因として、製品不良へ初期対応のミス、同族支配の強さなどが指摘されていますが、それは病状に過ぎません。

意思決定のプロセスに営利やプライドといった物差ししか残っていない状況が生まれる何年も前に、企業としてのフィロソフィを失うことで、崩壊の物語は始まっていたのです。コーポレートサイトにどれだけ企業理念やミッションが掲げられていても、経営のあらゆる状況において最優先で尊重していく姿勢が失われたときにスイッチが入ります。

最近では、『いきなり!ステーキ』を展開するペッパーフードサービスの急成長と、その後の没落ぶりを誰もが知るところですが、一ノ瀬社長は東洋経済のインタビューを受けて、つぎのように語っています。

 敗因を分析すると、「過剰出店」と「顧客優先から利益優先になったこと」が大きい。出店数については、「イケイケどんどん」で出しすぎた。2018年は年間200店強のペースで、1日5店舗出した日もあった。当時は、新店を出せば1日100万円の売り上げがあった。だからこそ、業者は物件をどんどん斡旋してくれたし、銀行融資も存分に受けられた。今なら絶対に出さないようなエリアにも出したが、案の定、そういう店からすぐダメになった。ぜいたくな話だが、あのとき、私を止めてくれる人がいればよかったなと、今になって思う。

「顧客優先」というフィロソフィが失われて、「利益優先」になるという変化がペッパーフードサービスの落日へ向けての第一歩だったのです。

フィロソフィを重視する理由は、理想論を語りたいからではありません。経済学の用語に「合成の誤謬」という考え方があります。「ミクロの視点では合理的な行動であっても、それが合成されたマクロの世界では、必ずしも良くない結果が生じてしまうこと」を意味します。

これまで改革や再生に関わってきた企業では、フィロソフィというマクロ的な指針を喪失し、ミクロ的で貧弱な損得やプライドを指針として、優秀な人々が正しい判断を繰り返し、合成の誤謬を生み出し続けていった共通点を持っています。タカタの場合も、ペッパーフードサービスの場合も、切り取られた状況毎の判断がすべて非合理的だったわけではないはずです。

成功体験を持っていること

二つ目は、成功体験を持っていることです。「ダメな会社だから倒産する」と思っている人はおおいでしょうが、倒産する会社は、過去に絶好調の時期を持っているという共通点があります。逆に、創業以来、収支トントンでずっと低空飛行している会社は、その状態で安定して案外潰れないものです。

過去に絶好調の時期を持っていた会社が危機に陥る可能性が高まる理由は、「成功体験に縛られる」からです。「成功体験に縛られる」という話はよく聞くのですが、具体的にどういう状況を意味するのでしょうか。

何か学ぶ場合、「シングルループの学習」「ダブルループの学習」という2つのレベルが存在します。その違いをサーモスタットの例で説明すると、温度の設定値を24度にした場合、外部環境の変化に応じて24度を維持するためにどうしたら良いかを考えるのが「シングルループの学習」です。一方、そもそも温度の設定値を何度にすべきかがテーマになるのが「ダブルループの学習」です。

経営に置き換えると、売上増を図るときに、販売スキルを磨き、効果的なキャンペーンを考案して、成功パターンの水平展開を図るのが「シングルループ」で、そもそも売上増をすべきなのか、売上増を図るにしても既存品でするのか新商品を投入するのかなどを考えるのが「ダブルループ」です。

下手に成功体験があると、「シングルループの学習」能力が磨かれている一方で、「ダブルループの学習」能力が著しく低下していることが極めておおいのです。結果的に、大幅な戦略変更が必要になった局面で、これまでのやり方の強化という方法しか出てこないリスクが、成功体験を持っている企業には共通して内在しています。

ペッパーフードサービスの一ノ瀬社長が、敗因の一つとしてあげた「過剰出店」とは、まさにシングルループの学習能力が磨かれた結果です。

最後に

それにしても、この後におよんで、「あのとき、私を止めてくれる人がいればよかったなと、今になって思う」などと、他責的な発言をしている一ノ瀬氏が社長である限り、ペッパーフードサービスの再生は難しいでしょう。

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