計画を絵に描いた餅に終わらせないための解決志向の設問力

経営脳のトレーニング
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直近の倒産状況は低水準だが、増えているゾンビ企業

東京商工リサーチによると、2020年の全国の倒産状況は過去50年間で4番目の低さということす。

  • 2020年(1-12月)の全国企業倒産(負債総額1,000万円以上)は、件数が7,773件(前年比7.2%減)、負債総額は1兆2,200億4,600万円(同14.2%減)だった。
  • 件数は、コロナ禍の各種支援策に支えられ、7月以降、6カ月連続で前年同月を下回った。年間では2018年以来、2年ぶりに前年を下回った。8,000件を下回ったのは30年ぶり。
  • 1971年以降の50年間では、バブル期の1989年(7,234件)に次ぐ、4番目の低水準だった。
  • 負債総額は、負債10億円以上の大型倒産が198件(前年185件)と増えたが、2019年のMT映像ディスプレイ(株)(大阪・負債1,033億2,600万円)の反動もあって前年を下回り、50年間では1971年(7,125億5,400万円)に次ぐ、4番目の低水準。
  •  負債1億円未満は5,925件(構成比76.2%、前年6,288件)で、小規模倒産を主体とした推移に大きな変化はない。
  • 「新型コロナウイルス」関連倒産は、累計で792件に達した。

 

コロナ禍が続いているにも関わらず、これほど倒産件数が低水準なのは、新型コロナ対策として政府が打ち出した金融支援政策によって首の皮一枚で繋がっている会社が多いからに他なりません。

同じような状況は、リーマンショック後の2010年代前半にもありました。このときは、業績悪化と資金繰りに苦しむ多くの企業が、政策パッケージとして出された再生協議会スキームを利用して経営改善計画を策定し、借入金のリスケジューリングを行うことで倒産を回避しました。

ただし、再生支援協議会スキームによって一時的な資金難を解消できても、提出された経営改善計画が絵に描いた餅になっていて、計画どおりに業績の改善が進まないという状況が当時問題となりました。

今回も実は死に体同然な企業がゾンビのように生き長らえている可能性が高く、表面的に出てきている倒産数だけを見て、企業経営の実情を判断することはできません。

でも、こういう結果になるのは、不運でもなければ偶然でもなく必然的なのです。

再生支援協議会の政策パッケージに実効性がない理由とは

新型コロナ対策としての今回の金融支援策は、元本返済5年間据え置き、当初3年間利子補給といった最大限の条件が設定されています。元本返済も利子支払いも必要なければ、投入された資金が底を尽きるまでは倒産しないのは当然です。

しかし裏を返すと、新型コロナによって縮小した7割経済や変化した社会様式への対応が不十分な企業は、元本返済据え置き期間の5年を待たずして必ず資金難に陥ります。

そのときまた、中小企業再生支援協議会に持ち込まれる事故物件となり、リーマンショック後の再来になるでしょう。

リーマンショック後に多用された再生支援協議会の政策パッケージは、形ばかりの計画書が出来上がるだけで、その後計画通りに業績改善が進まなかったことには、当然原因がありました。

一つ目は、金融機関が再生支援協議会を利用した再建計画策定支援を盛んに行った理由が、最初から不純だったことです。具体的に言うと、政府の方針として適用件数を増やすことを金融庁から強く求められたことです。

そして、二つ目の理由は、再生支援協議会のお墨付きを得た再建計画案が出来上がると、企業の債務者格付けが1ランク上がるために、自行の貸倒引当金の積み増しをなるべく回避したいという金融機関側の利益に合致したことです。

その結果、再生支援協議会スキームで再建計画を策定し、中小企業金融円滑化法を利用したリスケを実行することで、塩付になった企業が多数出来上がったわけです。

当時、再生支援協議会からお墨付きを得られる再建計画は、外形的な3つの条件を満たす必要がありました。

  1. 3年以内の経常黒字化
  2. 5年以内の実質債務超過解消
  3. 10年以内の債務償還

この条件は、痛みの激しい企業にとって相当高いハードルです。

それにも関わらず、どの企業に対しても、先ず結論ありきの計画を鉛筆をナメながら策定した内容そのものに問題があるわけで、計画どおりに進捗しないのは当然のことです。

さらに、計画は計画に過ぎないわけで、計画の実行と検証を担保する体制とか仕組みが周到に準備されていなければ、計画が画餅に終わるのは無理からぬことです。

経営をおかしくした張本人の社長に、「立派な計画が出来たので、あとは頑張って実行してください」と言い渡して済むほど、経営改善は簡単なことではありません。

コロナ禍の渦中ということで、業績不振の中小企業問題は金融支援策でとりあえず先送りされていますが、ワクチン接種が開始されたことで新型コロナの収束にも出口が見え始めています。今後、中小企業の再建問題が一気に噴出してくる時期は、そう遠くない将来のはずです。その時は、再び大きな混乱が生じるのは間違いないでしょう。

問題志向で策定した計画が成果を上げられない理由とは

再生支援協議会スキームのように、先ずゴールありきで計画策定をしても、実現可能性が低くなるのは当然です。

では、フリーハンドで自由に計画を策定したら、より良い内容になるかと言うと、実はそうでもありません。

その理由は、計画を立てるときに最も重要な要素は、「設問の立て方が、解決策志向になっているかどうか」にあるからです。

ある問題に対して、間違った設問を立てて、設問に対しては合っているが問題解決には繋がらない答を導き出し、その実行のための工程表をどんなに精緻に作ったところで、期待する成果を導けないことは最初から保証されています。

例えば、売上を伸ばしたいときに、ほとんどの経営者、そして社員や多くの専門家も「売上を伸ばすためにどうしたらいいか?」という設問を立ててしまいます。

そして、社内会議とかブレーンストーミングとかをして、誰でも考えつくようなアイデアをいくつも出してきます。

  • セールスマンのインセンティブを高めるために、フルコミッションにする。
  • 広告宣伝をもっと活発に行う。
  • 常連客向けに特別セールを企画して値引き販売をする。

でも残念ながら、こうした思い付きの打ち手を講じても、「売上を伸ばす」という成果を手に入れることは滅多にありません。

計画策定前に適切な解決志向の設問をする

しかし、設問を解決指向に変えることで、大きな変化が生まれます。

「売上が伸びないのは、市場におけるシェアが伸びていないからか?」

この設問に答えるためには、さらに次の等式に要素を分解して考える必要があります。

[売上]=[市場規模]×[市場シェア %]

すると、先ずは市場規模の推移を情報として仕入れる必要があることに、自ずと気付くはずです。

仮に、市場サイズが横ばい局面に入っているならば、さらに以下の追加的設問が必要になります。

① 市場規模は将来的に拡大する可能性はあるか?
② 当社の市場シェアを増やす方法はないか?

2番目の設問は、さらに次の2つの設問に展開することが出来ます。

a 市場におけるシェアの決定要因は何か?
b 当社はその決定要因をどの程度有しているか?

①の設問に対する答が「NO」であれば、必然的に②の設問に対しての答を導き出すしかなくなります。

この設問に対して、シェアの最重要決定要因として出てくる答えは、以下のものです。

  • 商品の質
  • サービスレベル
  • 価格
  • ブランドバリュー
  • 販売員のレベル
  • 販売拠点と販売員の量と分布

このように、計画の質とは、精緻さや気合いによって決定されるものではなく、どれだけ適切な「解決志向の設問を立てられるか」にかかっているのです。

ただし、解決志向の設問を繰り返して立てた計画と言えども、実行に移してみると、考えた通りにいかないことが頻発します。

しかし、仮に計画どおりに進まなくても、思考のプロセスが明確になっているので、どの部分で仮説を誤ったのかという検証を容易にすることが出来ます。

何でもいい計画なら誰でも立てることが可能ですが、実効性のある計画を立てるためには、最低限「解決志向の設問」を適切に立てることが前提条件になります。

最後に、偉大な先達が残した言葉で、今回のコラムを締めます。

重要なことは、正しい答えを見つけることではない。正しい問いを探すことである。間違った問いに対する正しい答えほど、危険とはいえないまでも役に立たないものはない(ドラッカー)

どんな問題も、それが創られたのと同じレベルの意識では、解くことはできない(アインシュタイン)

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