補助金頼みの経営が危険なワケ

経営脳のトレーニング
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補助金に依存してはいけない理由

世の中には、補助金や助成金コレクターのように、次から次へと申請と受給を繰り返している会社が少なからずあります。

補助金コンサルタントに一任して、必要な書類を作成から申請まで代行してもらい、決定して補助金が振り込まれたら、その中からコンサルタントに報酬を支払えば良いので、自分の懐は痛まないというわけです。

一方で、実際に補助金や助成金がなければ立ち行かないという企業や事業もたくさんあります。

どちらのタイプの会社であっても、やっぱり補助金や助成金は当てにすべきではありません。

理由は大きく分けて2つあります。

一つ目は、全ての事業者に補助金や助成金情報が行き渡っていないという状況が問題です。 

社長自らせっせと情報収集する人もいますが、結局はそういう情報格差が存在することを利用して、申請書と報告書を行政が望むように書くことに長けた専門家が、自らの商売のネタにしている構図が存在します。

行政側に言わせれば、WEBサイトで誰でも見ることができるように情報開示しているのだから、情報は遍在していないはずだという考えなのでしょう。

でも結果的に、資本主義と自由主義経済に不可欠な公正な競争環境を逆に歪めているかもしれないという疑問が、どうしても払拭できません。

だからと言って、行政が広報活動にもっと金と時間をかければ良いとは思いません。

二つ目の理由は、補助金が問題解決にならないだけではなく、むしろ経営者と企業の成長をスポイルする可能性が高いことです。

特に創業助成金については、注意が必要です。

医薬品の研究開発のように、商品となるのに時間がかかるビジネスならば、初期の資金は豊富であることが望ましいのは認めます。

だが、自分が着想したアイデアを事業化しようとか、小規模店舗の経営からスタートすることを考えているのならば、最初から「お金をもらう」ことは、起業家にとって悪影響を与えます。 

寄付金で運営するボランティア活動ではなくビジネス活動なのに、最初に顧客以外からお金をもらったら、それはビジネスであることを自ら否定することになります。

また、補助金とは言うまでもなく税金が原資ですから、その使い途は細かくチェックされます。

補助金事業の応募にあたっては「事業計画と見積り」を提出することが一般的です。

行政側はこの「事業計画と見積り」を審査し、その結果で採択の可否(つまり補助金を出すか否か)を判定します。

このようなプロセスがあるので、事業計画から逸脱した部分については補助の対象とはなりません。

したがって、その金額の過不足だけではなく、「計画通りの内容でお金を使っているか」ということをチェックされます。

詰まるところ、補助金を使うということは、「あらかじめ計画したお金の使い方しかできない」ということです。

しかし残念ながら、事業のスタートアップにおいて計画通りに何ごとも上手くいくことなどあり得ません。

経営環境の変化に伴い、戦略的思考のベースが、今までの予測志向から仮説思考に変わることが求められているこれからの時代において、仮説立案と検証のサイクルを高速に回しながら事業を形にしていく方法には、補助金の活用というスタイルが適しているとは言い難いのです。

行政として公共事業をやるのではなく、主体的に私企業を経営する道を選択した以上、自分たちの儲けのためにビジネスに取り組んでいるわけですから、公益だとか弱者支援という理由で補助金を受け取ることを潔しとしない矜恃が経営者として必要ではないでしょうか。

加えてそもそも論を言えば、ビジネス活動とは正反対に位置する行政が、成長分野を定めて、かつ見込みのある企業に補助を通じて重点支援するというけれど、そんな眼力があるとは思えません。 

農業女子はなぜ補助金を受け取らなかったのか

現在ページは削除されていますが、2015年に「農業女子はなぜ補助金を受け取らなかったのか」という記事が日経ビジネスオンラインに掲載されました。

農業という分野は、補助金漬けでズブズブになっていて、農家によっては収入の半分が補助金だというケースもあります。

そんな補助金慣れした世界で、農水省の補助金を断った中居樹里さんという新規就農者を取材した記事です。

2015年当時は、農水省が管轄する「青年就農給付金」により、最長で5年間年額で150万円の需給が可能でした。(現在は「農業次世代人材投資事業」に名前を変えて、1~3年目は150万円/年、4~5年目は120万円/年の支給額となっている。)

では、なぜそんな恵まれた制度を彼女は利用しないのでしょうか。

 「ちょっと意地みたいなのがありまして」

 そう言って彼女が話してくれたのは、会社をやめるときの上司のなにげない一言だ。

 「いま農家って、生活できるくらいのお金を給付金でもらえて楽勝なんでしょ」

 これを聞きながら、「そういうイメージを持たれてるんだ」とさびしく思ったという。

彼女が言う「意地」というのは、先ほど述べた経営者の「矜恃」と同じことです。

 そして意地以外にも、彼女が補助金を受け取らなかった理由は、もう一つあります。

 「農家に限らず、起業する人は最初はお金が本当にきついと思うんです」

 「いま月に10万円を目標にしてますけど、あと2000円とどかない場合、もし給付金をもらってしまったら、この2000円をつくるためにありとあらゆる手をつくすでしょうか」

 「きちんとできる人は違うでしょうが、わたしの場合はどうかなあと思うんです」

 ではどんな努力が可能なのだろう。

 「スーパーの売り場に置くポップを自分でつくってますが、もっと売れるようにがんばってみるとか、あと2000円をどうやってつくるか、すごく考えるんです」

 栽培技術はまだ途上でも、ほかにできることはあるわけだ。

 就農前に農作業を手伝いに行った先で感じたことも、行政の助成に距離をおく考えにつながった。

 「その人たちも新規就農なんですけど、年齢が高くて給付金の対象になってなかったんです。でもそういう方のほうが、野菜をつくるのがうまいんです」

 ネットなどで知ったベテラン農家の姿にも感じるものがあったという。

 「10年以上前だと、新規就農はいまのようにウエルカムじゃなくて、給付金制度もなかったじゃないですか。でもそういう方たちのほうがスピリットがあって、絶対に負けない、ちょっとやそっとじゃ倒れない感じがするんです」

 こうした彼女の発言を読んでいると、極めて経営マインドが高い方だということが分かります。

 こういう若者が、もっと農業に取り組むようになれば、日本の農業にも新たな未来が開ける可能性が、グッと高まるのではないでしょうか。

 ましてや、法人を起ち上げ社長を名乗り生粋のビジネスを行っている以上、補助金に頼るなどという考えは捨てて、あえて自らを窮地に追い込むことで一層の飛躍を図る、という覚悟をもって経営に邁進する人が増えることが、日本経済の骨太な復調のために不可欠です。

 そして、一回まわって終わる補助金導入の支援をするのではなく、持続的に回り続けるビジネスのエンジンを作りあげることを支援するプロフェッショナル(専門家)が増えることが、同時に必要です。

 「補助金」というコトバが頭をよぎったことがある社長は、本当に自分の会社に必要なことが何なのかを、これを機会にあらためて考えてみてはいかがでしょうか。

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