企業組織にダイバ-シティが必要な理由を本当に理解していますか?

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2021年卒大学生の就職企業人気ランキング

就職活動というと、昔からマスコミが好餌としているネタが、就職先人気企業ランキングです。

マイナビによると「2021年卒マイナビ大学生就職企業人気ランキング」は、こうなっています。

文系 理系
1 JTBグループ ソニー
2 全日本空輸(ANA) 味の素
3 東京海上日動火災保険 富士通
4 日本航空(JAL) サントリーグループ
5 オリエンタルランド トヨタ自動車
6 伊藤忠商事 NTTデータ
7 ソニー カゴメ
8 味の素 資生堂
9 ニトリ 明治グループ
10 ソニーミュージックグループ 日立製作所

1986年卒大学生の就職先人気ランキング

大学生の就職先企業の人気ランキングは、昔から世相を反映すると言われていますが、たしかに30年前以上前のランキングからは大きく変わっています。

ちなみ、1986年卒の就職先企業の人気ランキングは、こうなっていました。

文系 理系
当時の社名 2021年
順位
現社名 当時の社名 2021年
順位
現社名
1 東京海上火災保険 6 東京海上日動火災保険 日本電気 100
以下
2 住友銀行 35 三井住友銀行 富士通 3
3 富士銀行 58 みずほFG 日本IBM 100位
以下
4 松下電器産業 100
以下
パナソニック 日立製作所 10
5 日本電気 100
以下
松下電器産業 13 パナソニック
6 三菱商事 42 ソニー 1
7 日本IBM 100
以下
東芝 57
8 日本生命保険 20 本田技研工業 40
9 第一勧業銀行 58 みずほフFG トヨタ自動車 5
10 三井物産 100
以下
三菱電機 64

文系、理系ともに30年前といまでは就職先として人気のある企業の顔ぶれは大きく様変わりしています。強いていうならば、文系の方が理系とくらべて、より人気企業の移り変わりが激しいようです。

すべての組織は繁栄の後に衰退する

2021年卒と1986年卒の就職先人気企業のランキングを見ると、以下のことが分かります。

  • 30年以上の時を超えて、ベスト10の中に留まり続けている企業が、文系と理系を合わせて5社ある。
  • ただし、その5社のうち合併を行わずに、30年前と同じ社名を残しているのは、ソニー、富士通、トヨタ自動車、日立製作所の4社である。
  • 1986年と2021年を比較して、順位を上げた企業はソニー1社のみである。
  • 2021年に100位以下に消え去った企業が6社ある。

不正会計処理により糾弾を受け2016年3月期決算で5000億円を超える赤字額を計上し、その後2020年1月にも連結子会社東芝ITサービスで不適切会計発覚した東芝などは、理系の人気ランキング7位に入っていた30年前から、業績も人気も大幅に下落しました。

こうした就職企業人気ランキングの移ろいを見ていると、人間の過去の歴史が物語るとおり、どんな覇権国家も必ず衰退し滅びることを改めて強く感じます。

ローマ帝国、大唐帝国、モンゴル帝国、スペインとポルトガル、大英帝国・・・・

モンゴルのGDPはどれほどで、ポルトガルの国際社会における影響力はどれほどであるか、それを考えれば「諸行無常、栄枯盛衰は世の掟」であることは、否が応でもでも分かるはずです。

現在、地球上において最強のアメリカ帝国もすでに、凋落期に入っています。

世の中や人の営みとは、そういうものである。

でも、ただ「しかたがない」と言い放つだけでは芸がありません。

なぜ、あらゆる帝国は滅びるのか?

なぜ、あらゆる繁栄の時代には終わりが来るのか?

なぜ、この世の春を謳歌していた花形企業が一転して頓挫してしまうのか?

その理由について考えてみます。

創業期から成長期の企業には出来は悪いが個性的な人材が多い

創業者とは、アイデアや創意工夫の才を持っているからこそ、これまでとは違うビジネスモデルを確立して起業した人です。

創業者は、サラリーマンとしても平均以上の成果を上げていたにも関わらず、あえて独立独歩のリスクをとったわけだから、自立心も旺盛です。

創業者が優秀で、時の運にも恵まれれば、ビジネスは成功し、企業は急成長します。

この急成長の局面においては、常に「人手が足りない」「猫の手でも借りたい」という状況が続きます。

そこで、この窮状を凌ぐために、そこら辺でウロウロしている「猫の手よりも、少しはまし」的なはみ出し者のような若者達を雇い入れ、戦力化していくことになります。

こうしてかき集められた若者達は、創業者並みの才覚や自立心は持ち合わせていませんが、もともと「はみ出し者」なので、その時代の価値観にはなじみが悪く、ちょっとひねくれ者で、やや怪しい人脈やら、意外な裏技などを持っています。

急場しのぎの腰掛けバイト感覚で仕事を手伝い始めたら、いつの間にかどっぷり深みにはまってしまった若者達は、数年するとリーダー格になり、企業の屋台骨を支えるようになります。

経営者としては四苦八苦しながらかもしれませんが、ここまでは企業として、たいへん望ましい展開といえます。

ところが、このあと事情は一変します。

成熟期の企業には優秀だが没個性な人材が集まる

企業が成長を続け、社長が商工会議所やローターリークラブの活動に勤しむうちに地元の名士なり、ついには株式が上場され、社長のインタビュー記事や顔写真がマスメディアによく載るようになると、この会社に「これまで来たことのないタイプの若者達」が押し寄せてきます。

「これまで来たことのないタイプの若者達」とは、東大京大とか早大慶大とかに在籍する「勉強ができる子達」のことを指しますが、「御社の将来性」を見込み「若い企業での活躍の場」を求めて、彼らがわわわらと集まり始めます。

こうなると、たちまち人気企業ランキングに入り、就職倍率がうなぎ登りとなる。

2021年の就職先企業の人気ランキング100位までを見ると、特に文系の方に、あまり馴染みがない社名がチラホラ出ています。Plan・Do・See、アイ・ケイ・ケイなどです。

本来は若干名だけ採用したいのに、1000名もエントリー応募者がいると、全員をインターンで受け入れてから見所がある人だけ残すというような手間のかかることは出来ません。

せめて書類選考で、100人くらいに絞り込みたいと思っても、東大法学部やペンシルベニア大学ウォートン校MBAなどのスペックを持つ応募者を書類選考だけで落とすわけにはいきません。

せっかく書類選考で100人に絞り込めても、100人が100人そういう書類選考だけでは落とせない華麗な肩書きの持ち主ばかりになると、詰まるところそれ以外の大学や短大・専門学校出身者には、最初から面接を受ける機会が無くなります。

人材と採用について、よほど一貫したブレのない方針を確立している企業以外は、すべてこの道を進むことになります。

実際には、人材と採用についてしっかりしたポリシーを確立出来ていないまま、「いままで来たことのないタイプの若者達」が応募してくることで、「うちの会社も、ここまで来たか」という感慨に耽る経営者が多いのです。

結果的に、創業者のようなクリエティビティと自立心がなく、急成長期の「はみ出し者」社員のような懐の深さもない、「知名度、権威、多量の情報、高い賃金」にこそ価値があると信じて疑わない模範的な優等生達が、新入社員群を形成することになります。

こうして、企業は「情熱的でクリエイティブな創業者」「柔軟性の高い管理職」「真面目さだけが取り柄の新入社員」という3種類の人材が織りなす混沌とした状態のときに全盛期を迎え、そして創業者世代、つぎにはみ出し者世代が引退し、全社が受身のイエスマン一色に染まったときに、例外なく衰退期へ突入することになる。

組織の衰退は構成員の均質性の高まりとともに始まる

今さら言うまでもないことですが、組織というのは様々な価値観を持つ人がメンバーで構成されているときが、ギクシャクしながらも一番活力が高い状態です。

しかし、名を成し繁栄している企業に、あとから寄り添ってくる人間は、「なにかおいしい話がある」ということに釣られて集まってくる私利私欲追求型の特質を持っているから、その意味において均質性が高まります。

なにも私利私欲型がいけないと言っているのではなく、組織にとって、どんな特質であろうが均質性が高まることの危うさを指摘しているのです。

創業者のような自分のアイデアを試したくて仕方がない人ばかりでも、はみ出し者のようにデタラメな要素が多い人ばかりでも、「そんなタイプだけしかいない」状況になると、組織は立ちゆかなくなります。

歴史が証明していることは、あらゆる組織は多様性を維持しているときに繁栄しますが、その姿を見ておこぼれに預かりたい均質的な個体を呼び寄せることになり、結果的に組織としての多様性を失って滅びるということです。

勉強のできる人達がたくさんいる大企業の人事部は、均質性がもたらす危険を知っているので、人材採用において「多様性」とか「個性」とか「ダイバーシティ」という用語を多用しています。

でも、そもそも自分が「サクセスしている企業」を選好するという均質性を持って就職活動を行い、めでたく就職したという事実を無視しています。

だから、多くの企業にとって多様性とは、既存の構成員達が「許容できる範囲内」のレベルに限られるのです。

看板が弱い中小企業は人材の多様性を確保できるメリットがある

大企業の話はともかくとして、「うちは大企業ではないから、なかなか人が集まらなくて・・・」と嘆いている中小企業の社長は、それほど悲観的にならなくてもいいのです。

なぜなら、看板に引き寄せられてくる人物でがいないからこそ、人材の多様性を確保できる可能性があるからです。

岡野工業のように「先着順採用」とか「一年間は先輩の仕事を見ているだけで教えない」というようなやり方は、それだけ真似をして意味はありませんが、人材の多様性を確保するために考え抜くことの重要性は理解できるはずです。

資金繰りが忙しく、「即戦力になる人物が欲しい」という企業では難しいですが、小さな巨人企業として、人材採用について一貫性のあるブレない方針を確立することが、経営者として極めて重要な仕事であることを改めて胸に刻み、今日から早速取りかかることを是非勧めます。

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