経営管理にイノベーションが求められる理由とは

経営脳のトレーニング
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イノベーションの4階層

優秀な経営者であれば、経営における「イノベーション(革新)」の重要性を理解し、その実現を努めているはずです。

しかし、「イノベーションとは何か?」と問われると、製品やサービスの分野に限定して考えている人がほとんどです。

この原因の一つは、イノベーションという言葉をポピュラーにしたクレイトン・クリステンセン著「イノベーションのジレンマ」にあります。この本のサブタイトルは「技術革新が巨大企業を滅ぼすとき」となっているように、この本は技術分野のイノベーションに焦点を当てています。

そのため、サービス業や販売業の企業経営者は、自分の会社にイノベーションは縁遠い話だと思っている人が多いのです。しかし、イノベーションには階層があることをゲイリー・ハメルは著書「経営の未来」の中で指摘しています。

イノベーションの主たる対象は、時間の経過とともに、下層から上層へ移行しています。

業務イノベーションは、ITインフラの整備という形で多くの企業に業務効率のアップをもたらしました。

製品/サービス・イノベーションは、アップル社のiPhoneや最近の日本ではバルミューダが分かりやすく象徴しています。

そして、戦略イノベーションでは、競合他社が即時に追随不可能なビジネスモデルを伴いますが、LCCの草分けであるサウスウエスト航空などが成功例としてあげられます。

経営管理分野に求められるイノベーション

イノベーションの階層を上にあがるほど、創造される価値が増大し模倣難易度が高まり防御力が強くなりますが、変化のスピードが加速する一方の経営環境において、イノベーションの旬な期間がどんどん短くなっています。現在では、よくできたビジネスモデルの賞味期限でも5年というところです。

そこでこれからの時代、イノベーションの焦点を経営管理分野に当てる必要性が高まっています。

ただし、これまで経営管理に関するイノベーションが、まったく行われていないわけではありません。

たとえば、フレデリック・W・テイラーは経営に科学的管理の考え方を持ち込んだことが、近代経営の礎になっています。

また、現在多くの企業が採用している事業部制という組織モデルも、GMが行った経営管理イノベーションです。

しかし、どちらも100年近くも昔のことで、生産性の向上につながるテイラーの手法も経営資源を分配し意思決定の迅速化を目指したGMの事業部制も、とっくに旬の時期を過ぎています。その間、経営者は経営管理イノベーションに関しては、大きな必要性を感じずに過ごしてきました。

企業組織は変化に対する俊敏性と柔軟性を備えよ

では、これからの時代に求められる経営管理イノベーションとは、どのようなものなのでしょうか。

変化のスピードが今よりも緩やかだった時代は、経営者には「予測」能力が大切でした。

情報を収集し分析して、将来の市場や業界の姿を見極め、先手を取って自社の舵取りをしていくことが経営者の仕事だったからです。

もちろん100%正確な予測は不可能でしたが、多少シナリオが異なったとしても、組織を強大化し市場シェアを高めることで経営の安定性が揺らぐことを避けられました。

ところが、向こう5~10年の間に業界の枠組みを超えた場所で予想外のイノベーションが起こり、前例のないかたちで変化を迫られることが、次世代経営の特徴なのです。

つまり、予測のできない事態に直面して、衰退するのか、迅速に自らをつくり変えられるかが、経営における最大の課題になります。

そのため、変化に対する高い防御力や変化の微細な兆候を見逃さず先手を打つ能力以上に、出現した事態に対して経営資源や組織を迅速に再編する力が、新たに最重要になってきます。

多くの企業が「新製品・新サービス・新事業の開発」を経営課題にあげることから、製品やサービスを継続的にリニューアルする必要性は誰もが認めています。ところが、経営のやり方については古典的な王道があると信じてはいないでしょうか。

その証拠に、戦略転換やビジネスモデル刷新には臆病で、組織能力(ケイパビリティ)やコアバリューは不滅のものだと信じています。

「一時的なものを持続的なものと勘違いする」ことが、事業につまずく企業と経営者の共通した特徴なのです。

だからこそ、経営資源の再編は日常的な経営タスクではなく、何十年かに一度襲ってくる企業存続に関わる危機からの再生における特別な仕事という認識を持っている人が多いのです。

しかも、日産のカルロス・ゴーン氏やJALの稲盛和夫氏のような新経営トップを主人公としたワンマンヒーローのサバイバル物語と無意識に思い込んでいます。

これからの時代、目指すべきは危機とは関係なく、継続的に経営資源を組み替え、新たなビジネスチャンスに迅速に適応する経営基盤を持つ企業あるいはネットワークを築くことです。

これまで主流だった再生は、痛みが大きいだけの時代遅れの変革プロセスであり、タイムリーな適応プロセスの代用としては高くつき過ぎることを肝に銘じる必要があります。

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