売れない営業マンを前提とした経営をしない社長
日本の首相が外遊をする際に企業経営者が同行し、首相自ら相手国に売り込みをかけるということがよくあります。
一国のトップが営業をかけるくらいですから、一企業において社長がトップ営業マンの務めを果たすのは当然だと広く世の中で信じられています。
しかし、この考え方は本当に正しいのでしょうか。
もちろん、社長に豊富な営業経験や優れた営業力があるに越したことはありません。
でも、社長の営業力に依存しなければ売上を確保できないような会社は、継続して繁栄していくことはできません。
トップ営業に精を出してしまう社長は、その理由づけとして、「営業マンがだらしない」とか「陣頭指揮をとることで、現場を鼓舞している」というようことを口にします。
でも本当は、それが一番楽だからでしょう。
仕入値が1,000円の商品を50倍の50,000円で月1,000個売ることができる営業マンが10人いれば、その会社は他のどんな商品を扱っても儲かります。
売上高 (50,000円/個×1,000個)/人×10人=500,000,000円
粗利率 (50,000円ー1,000円)÷50,000円=98%
粗利額 500,000,000円×98%=490,000,000円
ところが、原価1,000円の商品を1,100円で売れればよい方で、値引きして900円でしか売れない営業マンが珍しくないというのが現実です。
売上は営業マンがつくるものだと考えているトップ営業マンを自負する社長は、売上が伸びないのは、営業力が不足しているからと結論づけます。
そこで営業力強化のために何をするかというと、営業マンの増強、教育、ノルマ管理、そして気合い注入のための決起集会と相場は決まっています。
しかし残念ながら、どんなに営業マンに発破をかけても思い通りの数字に到達しないのならば、社長は前提を「売れない営業マンしかいない」と変えて経営をする必要があります。
つまり社長の仕事とは、売れない営業マンでも売れる商品と戦略を考えることに尽きるのです。
もちろん、営業力を否定するわけではありません。
しかし、営業力という武器に依存した会社は、遅かれ早かれ業績の壁にぶち当たります。
ひと昔前は、営業力がモノをいうことがもあったかもしれませんが、いまの顧客は営業力で売られることを嫌うという変化を見逃してはいけません。
マーケティングとは購入する顧客を見つけ出す活動
そこで重要になってくるのが、営業=セールス以前のマーケティングということになります。
「マーケティングなんて知っているよ」と思うかもしれませんが、あえてマーケティングの定義を明確にしておきます。
辞書的な定義は、世の中にたくさん流布しているので調べてもらうとして、簡単に言い表すと「商品を購入する顧客を見つけ出す活動」になります。
例えは悪いかもしれませんが分かりやすいので、街で女性に声をかけてナンパをする状況を考えてみてください。
最初のハードルは、「下手な鉄砲も数打ちゃ当たる」とばかりに、手当たり次第に街行く女性に声を掛けられるかどうかが、その後の命運を分けることになります。
拒絶されることを恐れて、声を掛けることができない男は、どんなに頭が良くてもナンパが成功することはないでしょう。
つぎに、100の声掛けをして、99の失敗と1の成功を手にした後に、何を学ぶかがナンパの成功率を上げられるかどうかの境目になります。
並みの男は、ナンパ成功の秘訣をこう語るでしょう。
結局はたくさん声を掛けた者の勝ち。
そのためには、強いメンタルが必要だ。
最終的には押しの強さあるのみ!
一方、できる男は、ナンパ成功の秘訣をこう語るでしょう。
最初からイケそうな女性を見分けること。
特に、ほかの奴ではダメでも、俺にはOKしてくれそうなタイプの子を見逃さないこと。
並みの男は営業力だけに頼り、できる男はマーケティング力を持っているのです。
マーケティング的な用語を使って、できる男のしていることを説明するとこうなります。
自らのUSPを明らかにして、競合が少ないポジショニングを定め、ターゲット・セグメンテーションにアプローチする、
世の中全ての人や会社が、潜在的見込客にはなり得ません。
どんなに説得しても買ってくれない相手がいるし、実際のところ、買ってくれない相手の方が圧倒的に多いのです。
その反面、買ってくれる相手を見つけ出すことさえできれば、クロージングすることは簡単です。
だから、マーケティングとは「商品を購入する顧客を見つけ出す活動」と位置づけられるのです。
経営者は自分の会社のマーケティングを独自に定義する必要がある
ただし、マーケティングの一般論に留まらないことが大切です。
自社にとって、「商品が売れるまでの流れの中で、どの部分にもっとも力を入れれば売上が伸びるのか」ということを経営者としてきちんと把握する必要があります。
それが、その会社にとっての「マーケティング」なのです。
しかし、それができている社長は、実際にはとても少ない。
だからこそ、マーケティングをどのように定義しているかで、会社の特徴や社長の能力が分かってしまうのです。
自分の会社にとって、マーケティングとは何を意味するか一度考えてみることをお勧めします。