「お家騒動」が起こる原因は現経営者の怠慢にある

経済・社会・政治
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大塚家具、大戸屋と頻発する企業の「お家騒動」

ここ数年で話題になった「お家騒動」を起こした企業として思い浮かぶのは、大塚家具や大戸屋です。

しかし企業を舞台とした「お家騒動」は最近の流行ではなく昔から繰り返されてきています。

過去10年間程を振り返っても、ニトリ、赤福、円谷プロ、大王製紙、一澤帆布など、枚挙にいとまがありません。

お家騒動を契機として経営体制が一新され、成長を加速することに繋がれば、荒療治ではあるけれど、経営革新のための一手段と考えることも可能です。

しかし、ほとんどの場合、ブランド価値が傷ついたり中核的な人材を喪失したりすることで、逆に企業の生命力を弱める結果となっています。

「お家騒動」とは何を意味するのか?

「お家騒動」という言葉を、テレビや新聞の記事の中で何気なく使っていますが、そもそも「お家騒動」とは何を意味するのでしょう。

お家騒動というテーマは、江戸時代を通じて講談・歌舞伎などの作品の格好の題材とされ、特に歌舞伎では「御家もの」という一つのジャンルが確立されています。

その主題は、大藩の跡目相続に関わる内紛ですが、筋書きにはお決まりのパターンがあります。

自分の権勢を拡大したい男の子を持つ後妻や側室が、悪知恵が働く狡猾な家老と組んで、正妻の子である跡取りを廃嫡に追い込むことを諮るが、これを忠臣たちが排除して御家の安泰を図るというものです。

この筋書きがハラハラドキドキ感をもたらす理由は、お家騒動が幕府に露見すると、改易(お家断絶)という大きな危機を招く当時の状況があります。

TVドラマ水戸黄門のように、ほとんどストーリー展開がワンパターン化していますが、庶民の嗜好は今も昔もそれほど変わらないようです。

しかし、『御家騒動-大名家を揺るがした権力闘争』(中央公論社 福田千鶴著)によると、お家騒動の本当の姿は、文芸作品の中で語られるワンパターン化した話とは少し違うようです。

戦国時代から江戸時代初期にかけては、お家騒動の要因として「器量・器用の論理」が支配してましたが、これは統治者を能力本位で評価する思想です。

藩主の能力が低い場合、当時の主従関係が双務的・契約的な性格が強かったために、家臣の方が見限ることがあったのです。

同じく器量・器用重視の観点から、逆に藩主が意のままにならない家臣を処罰したことがきっかけで、内紛が起きることもありました。

いずれにしても「お家騒動」の「家」という語に注目するならば、昔の「御家騒動」においては大名家を指し示すことは明らかですが、現代の企業を舞台とする「お家騒動」において「家」とは、企業を指すのか、創業家を指すのか、現経営者を指すのか、ずいぶんと曖昧です。

現代社会におけるお家騒動とは、相続をめぐる家族内のいざこざ、組織内部における派閥争い、あるいは組織改編をめぐる対立抗争などを含んだ、ある企業という共同体の運営を巡っての主導権争いだというゆるい理解に留まるしかなさそうです。

現代版「お家騒動」が起きる原因とは現経営者の怠慢である

話を現代版のお家騒動に戻します。

企業を舞台とした現代版のお家騒動とは、同族企業において、親子間、兄弟間、あるいは創業家と経営陣といった親族を登場人物とする経営陣同志または経営陣と大株主との間で起きる支配権の争いという特徴があります。

その典型的なタイプは、現経営者の死去に伴う後継者争いになります。

人間は誰しも、自分が現役を退くことや不測の事故や病気で急逝することなど考えたくないために、事業承継について早い時期から計画を立て実行に移している経営者は極めて少ない。

大戸屋の場合を引き合いに出すなら、創業者の三森久実氏が亡くなる1年前の2014年7月に、末期の癌で余命1ヶ月と宣告されました。

その時点で、久実氏の持ち株比率は約18%に上っていましたが、特段の相続対策を実行していなかったために、遺族が引き続き株式を保有して欲しいという久実氏の意向を受けて、会社側に功労金支給の検討を依頼したとのことです。株式を相続した場合に発生する多額の相続税への対策としてです。

久実氏は生前、息子である智仁氏を後継者にする意向を親族だけではなく、社長である窪田氏をはじめとする主要な経営幹部に伝えていたとされています。

そのため、久実氏が亡くなる直前の2015年6月25日の定時株主総会で、智仁氏は常務取締役に選任されました。

ところが、同年7月27日に久実氏の容態が急変して帰らぬ人になると、その後智仁氏は平取締役へ降格になり、水面下で進められていた8.7億円の功労金の支給も白紙になり、最終的に智仁氏は取締役を自ら辞任し会社を去ったという流れです。

このように事情をいろいろ探り始めると、それぞれの会社独自のストーリーが出てきますが、個別事案の中に存在する特殊な条件とか当事者の感情的側面などは、事後的な問題に過ぎません。

したがって、大戸屋のお家騒動を招いた原因は何かと問われれば、創業者会長が生前に経営と資本の両面において事業承継について準備不足だったことに尽きます。

同族企業が事業承継の準備を怠ると起こる問題とは

ただし、大戸屋の創業者がたまたま事業承継の準備を怠っていたのではなく、規模の大小を問わず日本の経営者のほとんどが、このリスクについて自分自身の責任を果たしていません。

特に同族企業の場合には、経営者の立場と株主の立場の両面に渡って、周到な準備が必要であるために、いつ事業承継に着手したとしても早過ぎることはありません。

ところが現実には、明確に後継者を指名しないとか、指名はしたが後継者がその地位を確固たるものにするための株式の移転が行われていないなどの不備を抱えた企業がほとんどです。

このように生前の事業承継への取り組みが不十分なことに加え、遺言の作成すらしていない現経営者もたくさんいます。

結果的に、株式の相続が会社の支配権を巡っての争続になり、経営の空走期間を生み出すことになります。

繰り返します。なぜ揉め事になるかと言えば、既にいない経営者であり被相続人が、後継者の指名、株式の帰属、その他財産の分割について、生前に既成事実化をしていないことに尽きるのです。

日本では、「死屍に鞭打つ」ことは非道だという倫理観が強いために、お家騒動が起きた後の状況の打開策については熱のこもった議論が行われますが、故人の準備不足を赤裸々に指摘することは控える傾向があります。

故人を非難するとか責任の所在を問題にしているのではなく、同じ轍を踏まないために、現に起きているお家騒動を他山の石とするならば、実は誰でも気付いているこの事実を口外するしかありません。

創業家一族が上場企業で同族支配を続けるのはエゴに過ぎない

大戸屋では、創業者である三森久美氏が、息子である智仁氏を後継者にし、そして創業家が株式を保持し続けるという意向があったと伝えられています。

非上場の企業ならば、創業者がこのような意向を持ってもよいのでしょうが、大戸屋はジャスダックに上場する企業です。

これは大戸屋だけの話ではなく、上場企業でもあるにも関わらず、創業家が資本面のみならず経営面でも異常なまでの支配力を発揮していることは珍しくありません。

その最も典型的な例は、下請け企業をすべてファミリー企業が実質的に支配することで収益構造までもコントロールしていた大王製紙があげられます。

私企業といえども、上場企業は社会の公器としての性格が強いわけだから、創業家がビジネスモデルまでに介入して利益を吸い上げるとか、歴代の経営者は直系親族に限定するなどの個人的な利害を優先すること自体が、事業承継やコーポレートガバナンス(社内統治)の問題を生む源になっている点も見逃せません。

セブン&アイ・ホールディングスやスズキ自動車が好例なように、現経営者が優秀であればあるほど、その子供が親に比肩する経営力を持っている可能性は低いにも関わらず、無理に後継者に指名することが、将来の企業存続を不安視する声を招き、最悪の場合は反対派の造反を招くことに繋がってきます。

なぜ企業を上場させるのか。その意味をよく考えて、あくまでも家業というスタイルにこだわりたいなら、言うまでもないことですが、そもそも非上場のままでいる道を選ぶべきでしょう。

また、創業家の支配力が強くなると、上場企業であっても、企業を私物化する意識が強くなり、結果的に金銭的な不祥事が発生しやすくなるのは、佐川急便、雪国まいたけ、大王製紙など過去の例を見れば明らかです。

そして、金銭的な不祥事に限らず、コンプライアンス(法令遵守)違反は、同族会社のお家騒動の契機になりやすいことは、賞味期限切れの商品を販売した赤福が好例になります。

そこで、特に同族企業ほどコーポレートガバナンスの強化が必要なのですが、社外取締役の設置や内部通報制度の整備などのお決まりの打ち手だけで満足していては、根本原因を絶つことは出来ません。

なぜなら、生まれながらにして裕福な暮らしをしている二代目、三代目の後継候補者達は、一般人の生活感覚を失いがちで、なかなか質素倹約の励行が難しいものです。そのような人物のまま、創業家のエゴで後継者に指名するのは、現経営者の見識が問われることになります。

歴史ある企業の後継者として人の上に立つ人間に値する素養を身に付けるためには、経営者である以前に親である現経営者が、幼少時から家庭内で不断の教育をする以外方法がありません。今さらながらに聞こえる浪花節かもしれませんが、他に術があるという話は寡聞にして知りません。

そういう意味で、特に同族企業における事業承継やコーポレートガバナンスは、一朝一夕に出来ることではなく、何十年ものスパンで考えて取り組むべき経営課題であることを肝に銘じたいと思います。

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