自社のの問題解決に経営学はどこまで役立つのか

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経営学を学んだり経営の知識を身に付けることが容易になった

出版不況が叫ばれている昨今ですが、経営に関する書籍の出版点数自体は、20年ほど前と比べて増えています。

実用的なビジネス書に留まらず、経営学のエッセンスが詰まった濃い内容の本も、Amazonや店舗の書架にズラリと並んでいます。

ビジネスマンにはお馴染みになったMBA(経営額修士)を冠した本もたくさん出版され、中にはベストセラーになったものもあります。

本に限らず経営に関する勉強のできる講座やセミナーは増えているし、社内研修でも幹部向けのコースでは、経営学をベースとした内容を取り上げることが多くなっています。

こうした環境のおかげで、一昔前は外資系ファームのコンサルタントしか使わなかった「競争優位」とか「コア・コンピタンス」といった言葉が、普通に会話の中で使われるようになりました。

その結果、KKD(勘・経験・度胸)で行う経営スタイルから、理論に裏付けられたスマートで効率的な経営スタイルへと変貌を遂げてきた、と言いたいところですが、果たして実態はどうなのでしょうか。

経営学とは、どのような学問なのか?

先ずは、「経営学とは、どんな学問なのか」を確認しておきます。

研究者は、経営学をつぎのように定義しています。

経営学とは、企業間の業績値(売上・利益に限らず、数値化可能な離職率、新商品占有率など広く含まれる)の違いを客観的かつ科学的に解明する学問である。

具体的には、仮説を立て、多くのサンプルを集め、業績の違いに対して影響を及ぼしている因子が何かを統計的に検証する手法をとります。

その結果、仮説が証明されれば理論になるわけですが、この場合の証明とは、「ある要因が統計的に見て多少なりとも影響があったかどうか」であって、「どれだけ影響があったか」とか「業績の違いに関わる全ての要因を解明できたか」は二の次なのです。

したがって、業績値の偏差(ばらつき)が100あったとすれば、経営学の理論で説明できるのは、せいぜい30前後に過ぎないのが通例だそうです。

つまり、残りの7割程度については、「それぞれの企業の特殊要因」として、理論構築のうえでは無視されるのです。

このことから何が言えるでしょうか。

学校で経営学を勉強したり、経営本を読んで学ぶことには意味があり無駄ではありません。

だだし、私たちが実際に経営で直面する個別の問題解決の際に、経営学が教えてくれるのは、考慮すべき要因の3割かよく見積もっても4割程度しかないことを知る方がより重要です。

つまり、実際の経営においては、経営学上の理論とかコンサルタントが声高に提唱する経験則で全てが簡単に解決するということはありえず、当たり前のことですが、自分自身で考えなくては解決不可能なのです。

「自分で考える」ということは、まったくの白紙から考えるという意味ではなく、例えば社会学や心理学などの異分野の知識や理論が役に立つこともあるでしょうし、自分自身の経験や身近な先達の教えが解決の糸口を与えてくれることもあるでしょう。

ただ、いずれにしろ「この手の問題に関しては、これが原因なので、こうすればよい」と教えてくれる書籍や、したり顔のコンサルタントから提言があったとしても、それはせいぜい全体の三分の一についての話で、自助努力によって取り組むべき部分は甘めに見ても半分は残されているのです。

経営学では対応不可な個別課題を解決する経営コンサルタントの役割

経営学に関する本や実用的なビジネス書が、これだけ世の中に溢れているにも関わらず、経営コンサルタントという仕事が存在している理由も、実はこうした経営学の守備範囲の狭さにあります。

経営学によって解き明かされている3割か4割の自明の理論や法則を、残りの6割から7割に結び付けて個別の企業の特定の課題に対してカスタマイズする必要があるからです。

だとすると、優秀なコンサルタントの輪郭が自ずと明確になってきます。

先ずは、最低限の条件として、一般的な理論を備えていることは当然でしょう。そのうえで、重要な資質は、個別企業毎の特殊要因を的確に見抜き、問題解決の道筋をカスタマイズする能力がどれだけあるかということになります。

裏を返すと、固定的なコンサルティング・ステップに従って、どの企業のどんな課題に対しても「これを導入しさえすれば、万事一件落着」と主張しているコンサルタントは、もっぱら自分の効率を考えているだけで、ほとんどの場合、あなたの会社の特定の課題の本質的な解決には結び付かないと考えるべきです。

繰り返しますが、経営理論や本に書かれている成功要因や失敗要因は、さまざまな成功や失敗の公約数に過ぎず、多くの場合、その企業に特有の重要な問題が手付かずに残されています。

だからこそ、「理論上は、あるいは本にはこう書いてあるけれ、どうもこれがすべてではないような気がする」という違和感を感じとるセンサーを研ぎ澄まし深堀りすることが、本当の意味で問題解決や戦略立案につながるのです。

つまり、既存の戦略や経営の知識は、ゴールではなく出発点に過ぎません。もちろん、それだけで解けてしまうような簡単な問題もあるでしょうが、それは誰にとっても手に入る結果であるために、あなたの会社の差別化にはなりません。

本や知識が拾い上げている公約数で割りきれない部分を、どれだけ地道に解きほぐせるかこそが差別化につながるのです。

こうした資質を、ここでは優秀な経営コンサルタントの条件として書きましたが、当然、経営者に求められる資質も同様になります。

経営者もKKDだけに頼るのではなく、一通りの理論や法則は身につけておくべきです。そして、さらに自社の特殊要因を見極めた上で問題解決に当たれば、「間違った問い」に対して「正しい答」を導いてしまう誤りを避けることが出来るはずです。

ただし、人間と同じで、自分のことほど分かりづらいものです。自社の特殊要因の見極めは、口で言うほど簡単ではないことが多いはずです。

その場合、外部のリソースを活用するのも一つの手だし、時間がかかろうが失敗を繰り返そうが、あくまでも自助努力にこだわるかは、最初に経営者が決定する事項になります。

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