優れたビジネスモデルづくりに必要な2つの視点

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ビジネスモデルの歴史

「ビジネスモデル」という言葉を知る人は増えている一方で、いまいち何のことだか分からない人も増えています。

そこで、ビジネスモデルとは何かを考えていこうと思いますが、先ずはビジネスモデルの歴史を振り返ってみましょう。

1900年代末期から2000年初頭にかけてのITバブルの頃は、戦略も特別な能力も必要ありませんでした。

それどころか、なんと顧客すら必要ではなくなった。唯一必要なのは、ウェブを活用したビジネスモデルだけでした。それも細かく設計されたものである必要はなく、未来の可能性を漠然と示すもので良かったのです。

投資家から企業家や経営者にいたるまで、たくさんの人がドット・コム企業のビジネスモデルに踊らされ、夢を買い、そしてヤケドを負いました。

確かに出来の悪いビジネスモデルに多額の資金が投じられたことは事実ですが、問題の所在は、「ビジネスモデル」という考え方にあるのではなく、「ビジネスモデルとは何か?」に対する明確な定義を持たないままに、誤解・誤用をしたことにあるのです。

その結果、ビジネスモデルという言葉を使う輩は、相手に胡散臭い印象を持たれることが今も少なからずあります。

しかし、企業が成功するには、いまなお優れたビジネスモデルが必要な場面は多いのです。

それどころか、市場の成長性に限界が見えてきた今後の日本においては、ビジネスモデルの再構築こそが、多くの企業が生き残っていくために必要なプロセスといえます。

ビジネスモデルとは何か?

あらためて「ビジネスモデルとは何か?」を考えてみましょう。

「モデル」という言葉が付いているから、高等数学や統計的分析が必要だと思う人もいるかもしれませんが、どうすれば会社が上手くいくかを語る「ストーリー」と考えた方が、ビジネスモデルを理解しやすいでしょう。

優れたビジネスモデルは、ストーリーの中にドラッカーが投げかけた質問「顧客はだれで、顧客価値はなにか」への答えを含みますが、それだけには留まりません。

ただ本当の小説と同じように、どんなに前衛的だと思える物語でもどこかしら過去の物語に通じるところがあり、どこかで人間のあらゆる経験に根差した普遍的なテーマに根差している必要があります。

ビジネスモデルという名の物語の舞台は大きく二つに分けられる。

一つは、モノを作ることに関わる活動です。具体的には、設計や原材料の調達、製造についてになります。

もう一つは、モノを売ることに関わる活動です。具体的には、誰をお客にするか(顧客のセグメント)、販売促進(プロモーション)、契約、製品・サービスの提供についてになります。

そして、一気に書き下ろして推敲無しで物語を完成させられる人が少ないように、ビジネスモデルの構築においては、まずは仮説から出発して、実験によって検証し、必要に応じて修正するというプロセスをとることになります。

ビジネスとはたった2つの活動で成り立っている

ビジネスモデルとは何かについて考えるにあたり、煎じ詰めれば企業は基本的に上記の2つのことしかしていないことを知っておくことが必要です。モノを作ること。そしてモノを売ることです。

マーケティング・分析・計画・管理は、企業活動の本質ではありません。こうした活動は、モノを実際に作ったり、サービスを提供したり、そのモノやサービスを最終消費者が購買する行動をサポートするものにすぎません。

最近の良くない風潮として、マーケティングや財務といった企業活動の本質ではない分野から、経営の改善や改革をアプローチする専門家が多いのですが、企業の本質的活動であるモノをつくること・売ることに対する改革を迂回していては、画期的かつ持続的な成果は得られません。

モノをつくること・売ることへの改革に取り組む場合、具体的な状況に身を置いて帰納的なプロセスを取る必要がありますが、それは泥臭くて骨の折れる仕事です。一方で、例えばマーケティングなどは、顧客や製品に留まらず時としてマーケットからも乖離している仕事です。

データを眺めながら、一般的かつ演繹的なプロセスを取りながら、分析とテクニックを駆使する仕事は、スマートでインテリジェンスに溢れたイメージがありますが、小手先で片付けていては成果に結びつかないことが多いし、下手をすると傷を深めることになりかねません。

ダメなビジネスモデルに共通する2つの原因

ビジネスモデルを考えるにあたり、別の視点として、上手くいくビジネスモデルと上手くいかないビジネスモデルの境目がどこにあるのかを見てみます。

失敗するビジネスモデルは、「ストーリー・テスト」(話の筋が通っているか)か「ナンバー・テスト」(収支が合っているか)のどちらかが及第点に達していないのですが、その原因をさらに突き詰めると、2つの真因にたどり着きます。

一つ目は、顧客行動に関する誤った仮説に基づいていることです。答が先にあって、後から問題を探すような思考のプロセスをとることで起きる失敗です。

ディズニーランドを例をあげてみます。ユーロ・ディズニーランドは、入場客数はともかくとして園内消費の売上の点で当初苦戦した。理由は、アメリカと日本で成功したビジネスモデルにしたがって、一回の来園で客が使う食事代とおみやげ代を見積もっていたからです。

アメリカ人は当然ながら日本人も園内のあちこちにあるレストランで一日に何回も軽食をとりますが、ヨーロッパの人たちは、そのような習慣がなく、決まった時間にちゃんとした食事をとりたがる習慣があることを読み切れていませんでした。

二つ目は、前段で述べたことに通じますが、モノをつくることとモノを売ることのバランスが取れていないこと起因する失敗です。

つまり、いいモノをつくることには一生懸命ですが、「いいモノをつくれば黙ってても売れる」といった昔気質の大工のような考え方をしていたり、その逆でそもそも付加価値が低いモノであることは放置したまま、どうしたら売れるかばかり考えているビジネスモデルは、ストーリー・テストをパスすることができません。

これからのビジネスモデルに必要な2つのポイント

以上のことを踏まえて、これからのビジネスモデルを考える時にどこに気を付ける必要があるでしょうか?

ポイントは2つあります。先ずは、自社のビジネスの性質を良く見極めることです。

ビジネスモデルの性質を見極める

前段で、ビジネスモデルのストーリー・テストに通るためには、モノづくりとモノを売る部分のバランスが重要と言いいましたが、最低限のバランスは取りつつも、最終的にはどちらの分野でキャッシュポイントを作るかを見定める必要があります。

そのためには、自社の本当の強みが何であるかを明確に把握していなければなりません。その強みを生かすためには、川上部分(設計やモノつくり)と川下部分(モノの提供)のどちらで勝負するかを考えることで、ビジネスモデルの骨格が自然と見えてきます。

一昔前までは、ビジネスモデルに大きな変化(イノベーション)を起こす舞台は、川上部分を得意とする企業に多かった。例えば、SonyのWalkmanや任天堂のファミコンなどは、今までに無かったモノをつくり出すことで大きな成果を上げました。

しかし最近は、川下部分で大きな変化を生み出している企業が増えています。PCのDellやアパレルのZARAは、新たな市場セグメントを突き止めたわけでも、これまでにない技術に基づいて画期的な新製品を開発したわけではありません。

それどころか、ハッキリ言って競合製品と似たり寄ったりで差が無いに等しい。これらの企業は、既存技術を用いて、既存の顧客ニーズに対応した既存の製品・サービスを提供する時の「やり方」を一から変えることで成功したのです。

ナンバー・テストを重視する

二つ目は、ビジネスモデルのテストにおいて、よりナンバー・テストの意義を重視する必要があるということです。

つまり、ビジネスモデルを最初に考える時から、財務的な視点を持つことが大切です。とりあえず雄大な夢物語を作ってから、次の段階において投資規模と収益レベルを検証するという順番がこれまでのやり方でした。

しかし、「儲ける」ためにビジネスモデルを構築するならば、これからは財務的視点抜きに話さえできません。さらに厳密に言うと、「儲かる」ということと「キャッシュ・リッチ」になることの違いを明確に理解したビジネスモデルの構築が必須です。

まとめ

以上の2つのポイントを踏まえると、「従来どおりコンテンツ勝負をする方法のほかに、消費者の”あったらいいな”を実現する既存のオペレーションの作り直し」を「高利益率・小資本」で行うビジネスモデルが成功する可能性が高いということになります。

日本のIT業界で見ると、アメブロを運営しているサイバーエージェントはコンテンツ勝負をしている企業です。

一方、価格.comや一休はコンテンツは全部他人のもので、消費者のオペレーション改善(簡単に価格比較をしたい・格安な高級ホテルの部屋を見つけたい)で勝負している企業になります。

サイバーエージェントとカカクコムや一休を比べると、後者の方が圧倒的に利益率が高く財務体質も強い結果になっていることが分かります。

ただし、消費者のニーズに応えるという視点で考えるビジネスモデルづくりは、すでに飽和しつつあるかもしれません。

これからは、生活を便利にするより人生を楽しくする、必要より欲求、競争より独占といったテーマでビジネスモデルを考えることが、持続的に成果をあげるための鍵になるでしょう。

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