利益の源泉の変化|効率から企業の強みへ

競争優位・差別化
競争優位・差別化
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別の記事で、利益の源泉を効率的利益から企業の強みが生みだす中核的利益へ移行することの重要性について取り上げました。

今回は、このテーマをもう少し深掘りしてみます。

「規模の利益」を活かして競争優位を築けた大企業

新商品の開発、新たなサービスの提供、未知なる市場の開拓・・・イノベーションの競争スピードは増すばかりで、休んでいる暇はありません。

ある企業が次に来るもの、最高のものを見つけるや否や、業界の誰もがそれを真似しようと動き始める。

技術が特許に守られていたり、暗黙知に依存する割合が大きいイノベーションの場合、競合がその秘伝のソースを解明するのには何年もかかりますが、単に着眼点の空白を突いただけのような低いハードルしか設定できない場合、何カ月も経たないうちに、利益を生む差別化がコモディティ同士の競争が始まる。

こうした泥仕合を招く競争の嵐を避けるには、これまで「規模の経済」が最後に残された砦でした。

言い換えると、規模による優位性は、一部の企業には少しだけ安全な避難場所となってきたのです。

多くの企業は、自社の製品やサービスにおける次の成功のサイクルを模索し続けなければならないけれど、ごく一部の企業は、先見の明ではなく規模の活用によって利益を追求することができました。

公益事業会社が好例です。電力会社がひとたび電線を張り、送電網と各家庭をつないでしまえば、新規参入業者が現れる可能性は低い。

イオンやセブン&アイなどの大規模小売業者も、仕入れコストを低く抑え、価格に競争力を持たせるために規模を活用してきました。

味の素やコカ・コーラなどの加工食品メーカーは、規模を活かして市場に素早く効率的に進出しています。

全体として見れば、規模は世界中の大企業に戦略面で大きな恩恵をもたらしてきたのは間違いありません。

起業家によるイノベーションの脅威から守るという意味でも、規模は大企業を守ってきたともいえます。

しかし残念ながら、規模により獲得できる優位性は、長くは続きそうにありません。

より厳密に言うと、規模によるメリットが消えてしまったのではなく、規模によるメリットが陳腐化したのです。

今日の世界では、規模を活用するために、みずから規模を獲得する必要はありません。

大企業が規模の利益を生み出す仕組み

30年以上前に、規模の経済と言った場合、営業面では点ではなく面で商圏を制圧することや、仕入面ではまとめ買いによる購入単価の引き下げを図ることを意味していました。

その後、インフォメーション・コミュニケーション・テクノロジー(ICT)の発達に伴い、大企業は情報システムを通じて規模の優位性を獲得する方法へと移行しました。

その結果、過去30年間大企業の経営陣が国外移転やアウトソーシング、オープンイノベーションなどの手法を取り入れて進めたのが、企業活動を業務機能によりモジュール化することでした。言い換えると、これまで複雑で統合的だったバリュー・チェーンを、ずっと小型で専門化されたバリュー・チェーンの集まりのようにしていくことを意味します。

複雑な製造や社内の物流インフラに頼るのではなく、専門化すれば「効率」が高まると経営陣は気づいたのです。

しかし、小型化されたバリュー・チェーンの集まりをまとめて有機的に機能させるためには、社内外を1つにまとめる大型の情報システムが不可欠です。世界で最も大規模な企業だけが、複雑な情報システムを築き、供給業者と配送業者を統合することで、規模と専門化の両方のメリットを享受することができました。

こうした情報の収集と分配は競争優位を促進しましたが、それを行うためには相応の規模が求められたのです。企業にとって、販売時点の情報を社内の調達チームに伝え、さらにはさまざまな製造のネットワークにまで伝えるのは、容易なことではありません。こうした業務を調整できる経営資源を持っているかどうかが勝負の分かれ目だったことになりまする

しかし、規模の大きさが優位性をもたらした情報伝達技術は、その後コモディティ化することで低価格になり、規模の大小を問わず広く行き渡るようになっていきました。

例えば、海外進出、海外製造、海外販売を行うには、独自の人材・独自の情報システム・独自の取引先開拓が必要でしたが、今日ではアリババを使えば済みます。また、以前は24時間営業のコールセンターを運営できるのは大企業だけでしたが、今日では小さな企業でもグローバル・レスポンス(コールセンター業務を代行する会社)などを活用できます。

それだけでなく、クラウドサービスにより、最小規模の企業でも最上級の顧客管理システムを利用でき、フルフィルメント・サービス(商品販売における一連の管理業務)や、会計プログラムも利用できる。今日では、調達における規模のメリットすらも危険にさらされている。(日本ではこれからですが、米国では共同購買サービスを提供するOrderWithMe などがあります)。

かつては、情報システムにはコストがかかり複雑であったため、他社の台頭を阻み、小さな企業が団結して規模を活かした購買や製造を行うこともできませんでしたが、低価格でアクセスしやすいICT技術が入手できるようになると、規模による優位性は陳腐化しつつあり、最小効率規模はどんどん小さくなっています。

規模が利益を生めない時代の差別化とは

大企業ですら、規模の経済による差別化が難しくなった以上、企業経営者はすべてが陳腐化するという現実をまず受け入れる必要があります。

それは、これまで全ての戦略の目的である「競争優位の持続」が不可能であることも同時に受け入れなければならないことを意味します。

その結果、最大であることに依存しない戦略を立てることが経営者としての新たな使命になり、同時に「一時的競争優位の連続」を実現する戦略思考への転換が求められるでしょう。

これらの変化を自発的に行うためには、利益の源泉を「効率」から「顧客価値」、「必要」から「欲求」へと素早くシフトしなければなりません。

言葉で語ることは簡単ですが、規模の経済を無意識に追い求める発想に毒されてる経営者にとって、企業全体を生まれ変わらせるに等しい一大改革を行うことは、想像以上に困難が伴うでしょう。

反対に、小規模企業やベンチャー企業は、その小回りの良さを生かして、自社の「強み」を生かした利益創造、事業の新規展開と撤退サイクルの構築、容易に組み変え可能な経営資源体制づくりなどの、動的に安定する経営スタイルを早期に作りあげることを目指すべきです。

これからは、競争に勝つのではなく、戦わずして勝つ土俵を自ら作りつづける企業が、規模の大小に関わらず成長と安定の両方を手にすることができる時代になるのです。

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