事業承継を遠い将来のことと考えている経営者
社長に求められる社長にしかできない仕事がいくつかありますが、事業承継あるいは後継者育成は、間違いなくその中の一つになります。
しかし、ほとんどの社長は目先の売上は気にしていますが、事業承継とか後継者育成というテーマになると、「まだ、その時期ではない」と口を揃えて言います。
2020年帝国データバンクが「事業承継に関する意識調査」を行った結果を発表しています。
事業承継を「最優先の経営問題」と捉えている企業は11.8%。「経営問題のひとつ」(55.2%)と合わせると、企業の67.0%が事業承継を経営問題として捉えています。
しかし、事業承継を進めるための計画については、「計画はない」が34.8%、「計画はあるが、まだ進めていない」が21.1%となり、半数以上の企業が事業承継への取り組みを行っていません。「進めている」は18.7%にとどまります。
7割方の経営者の意識は「事業承継についていつ考えるのか?」と聞かれたら「今じゃないでしょ」ということのようです。
しかも、この調査は過去にも行われていますが、2013年の調査結果と比べると、事業承継への取り組みが悪化している状況に気づきます。
2020年 | 2013年 | |
最優先の経営課題 | 11.80% | 23.30% |
経営問題のひとつ | 55.20% | 63.00% |
計画はない | 34.80% | 30.00% |
計画はあるが進めていない | 21.10% | 32.40% |
進めている | 18.70% | 27.60% |
面倒臭いことから目を背けている現経営者
2017年の同調査で、事業承継について「計画はあるが、まだ進めていない」または「計画はない」と回答した企業 5,147 社に対して、その理由を尋ねた結果を以下に示すます。
まだ事業を譲る予定がない | 35.80% |
後継者が決まっていない | 35.20% |
自社には不要 | 18.30% |
事業の将来性に不安がある | 16.90% |
自社株など個人資産の取扱い | 16.00% |
「まだ事業を譲る予定がない」が35.80%と1位の理由になっていますが、帝国データバンクの『2020年全国社長年齢分析』を見ると、全国の社長の平均年齢は60.1%で、調査開始以来初の60歳超えとなっています。
高齢化が進行しているにも関わらず、事業承継について取り組むのが「今じゃないでしょ」と、なぜ経営者は考えているのか。
「やる必要がない」は嘘で、面倒なことから目を反らしているだけではないでしょうか。
自分が元気なうちに考えたくないことなのかもしれませんが、事業承継は相続ではありません。現経営者の寿命が尽きた時点で他人が考えるのでは遅いのです。
しかし、事業承継で苦労することとして、「後継者育成」と「従業員の理解」が上位に来ている結果を見ると、事業承継が手間と時間がかかることを経営者は知っているはずです。
「後継者育成」や「従業員の理解」を進めるのためには、最低でも5年の時間が必要になります。経営者が自分の衰えを感じる前に計画的に着手すべき課題です。
会社の株式相続についてのリスクを考えているか?
さらに事業承継について考えることを先延ばしにすることで発生する別の大きなリスクがあります。
このリスクは全ての経営者にあてはまるはずです。
考えたくないことですが、経営者が今日不慮の死を迎える可能性は常にあるのです。
日本の中小企業経営者は同時にオーナーでもありますが、現経営者が持っている会社の株式はトラブルの温床です。
特に遺言がない場合、会社の株式は法定相続人に引き継がれますが、複数の法定相続人がいる場合、持ち分によって株式が分割されるのではなく、全ての株式が法定相続人による共有名義になります。
こんな状況になると、誰かが事業を存続しようとしても利害の調整で揉めることが多く、企業自体が解体の危機に瀕します。
賢明なる社長ならば、事業承継について計画的に着手する時期に早いということがないことに気付くはずです。
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