お笑い芸人に学ぶ「両利きの経営」が大切な理由とは

経営脳のトレーニング
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爆笑エピソードを連発する芸人さんは天才なのか?

一昔前のお笑い芸人さんは、ネタ見せで笑いをとることが売れるための必要十分条件でした。

ところが、最近テレビでの露出が多い芸人さんを見ていると、売れるための条件が変わったことが分かります。

売れているということをTVの出演本数の多さとするならば、その数を増やすためには、ネタの面白さよりもフリー・トークが面白いかどうかの方が重要です。

だから、最近売れている芸人さんは、漏れなくエピソード・トークが面白いという共通した特長があるのです。

『アメトーク』や『人志松本のすべらない話』といった番組の人気が高いことが、そのことを裏付けています。

面白い話に必要な2つの要素 - 話の内容 & 話し方

こうした番組を見ながら、面白い話を連発する芸人さんの秘訣を探ると、2つの要素があることに気付きます。

一つ目は、当然のことながら話の内容(コンテンツ)そのものです。

彼らの話を聞いていると、よくもまあこれほど身の回りで面白おかしい出来事や事件が起こるものだと、感心することしきりです。

二つ目は、話し方です。間の取り方、言葉づかい、イントネーション、声の強弱、そして話の構成とオチのつけ方などの非言語的表現が、よりコンテンツの面白さを引き立てています。

同じ話を私たちのような素人が語っても、あれだけの笑いをとることは出来ないはずです。

実はこの2つの要素は、お笑い芸人さんにだけ求められているのではなく、ビジネスの世界でも必要なことです。

後者の「話し方」の巧拙は、プレゼンテーション・スキルに通じるものがあります。

では、前者の「話の内容」の面白さとは、ビジネスの世界ではな何にあたるのでしょうか。

「売り方以前に優れた製品やサービスを持っていることが重要だ」と考えるかもしれませんが、そうではありません。

面白いエピソード・トークをたくさん持っている芸人さんは、波瀾万丈で奇抜な人生を送っているからではなく、アンテナを張っているからこそ、目や耳に求めている情報が入ってきているのです。

適切なアンテナを張る。それはビジネスにおいても、イノベーションを起こすうえで非常に大切なことなのです。

イノベーションを生み出すために必要な2つの要素

不確定性が高まり続ける環境において、現状に留まることなく大きな変化を自発的に生み出す力の重要性が、企業経営においてますます高まっています。

大きな変化とは、進歩の歩幅が大きいという量的な意味だけはなく、いま走っているレーンから別のレーンへ飛び移るというような質的な変化を伴う変化を意味します。

そのような大きな変化をイノベーション(革新)と呼びます。

現代のビジネスにおいては、経営者であればイノベーションの重要性を知らない人はいないでしょう。

でも同時に、現実に自社の中でイノベーションを起こしたいと思っても、その難しさにたじろいでいる経営者も同じくらいたくさんいるはずです。

多くの企業においてイノベーションが絵に描いた餅になっている主な理由は、イノベーションという言葉を知っていても、本当の意味でイノベーションの何たるかを理解していないからです。

では、イノベーションを起こすためには、どうしたらよいのでしょう。

チャールズ・A・オライリー著/マイケル・L・タッシュマン著『両利きの経営―「二兎を追う」戦略が未来を切り拓く』の中で、知の深耕知の探索というインテリジェンスについての2つの方向性について取り上げています。

イノベーションというと、常にゼロからイチをつくり出すような創造性の高い活動だと考える人が多いのですが、実際にはイノベーションの主たる源泉は「既存の知の新たな組み合わせ」にあります。

日頃のアイデア出しで何をしているかというと、「この商品を、別の分野の顧客へ提供したらどうだろうか」とか「あの素材をいま開発中の製品に使うとどうだろうか」というように既存の何かと別の既存の何かを新しく組み合わせていることが多いはずです。

既知のアイデアの組み合わせを変えることで新たな価値を生み出せるかどうかは、確率の問題ですから、イノベーションを起こしたければ、様々な知の組み合わせを試すことが出来るように、常に知の範囲を拡げることが望ましいのです。

これを「知の探索(Exploration)」と言います。

一方で、知の探索によって生み出されたアイデアからは、ビジネスとして収益を生み出す必要があります。そのために企業は一定分野の知を徹底して「深く耕す」ことも必要です。これを「知の深耕(Exploitation)」と言います。

継続的にイノベーションを起こしている企業は、「知の探索」と「知の深耕」がバランス良く行われていますが、多くの企業においては「知の深耕」に偏り、「知の探索」を怠りがちになる傾向があります。

たしかに目先の業績を良くしようとする場合、既に実績が上がっている「知」の「深耕」をした方が圧倒的に効率が良いです。

反対に「知の探索」は、思考の負荷が大きいうえ、すぐに収益に結びつく保証がないために、どうしても後回しにされるのは分からなくもありません。

しかし、「知の深耕」にのみ傾注することで、知の範囲が狭まり、企業の中長期的なイノベーションが希薄になるという結果を呼び寄せます。

お笑い芸人の世界はビジネス界の縮図だ

話をお笑い芸人に戻すと、面白いエピソード・トークを連発する人は、「知の探索」という点で優れた活動が出来ていることになります。

知の範囲を広くするために、家に閉じこもることなく毎晩飲み歩き、芸人以外のジャンルの人とも付き合い、忙しい合間を縫って旅行へも行く。

こうした知を探索する活動に積極的に手を染めている芸人さんは、平均的に面白いエピソード・トークをする人が多いと思います。

ケンドーコバヤシ、陣内智則、小籔千豊、宮川大輔・・・

しかし、「知の探索」には更なる奥行きがあると考えています。

物理的に知の範囲を拡げることが最も大切なことではなく、今まさに目の前にある出来事や状況から「何を感じとるか」こそが重要なのです。

珍事や大事件の場面に居合わせても、何一つ考えることも感じることもない人と、日常の瑣事に対しても豊かな想像力を働かせて多くのことを考え感じる人との差は驚くほど大きい。

面白いエピソード・トークが枯れない泉のように湧き出てくる芸人さんは、数奇な人生を過ごしているというより、「知の探索」を積極的に行うことで普通の人生からも多くのことを掴み取っていると理解すべきです。

同じ芸人さんでも、決まったカタチのある芸を披露する人、たとえばリズム芸人やギャグ芸人は、一度「知の探索」により新たな芸を編み出した後、一気に「知の深耕」に注力することで特定の芸を磨く道へ走った人です。

「知の深耕」に偏った芸人は、短期的に大人気を博しても、「知の探索」が疎かにされたために次のイノベーションを起こすことが出来ずに、一発屋として消えていく道をたとる人が後を絶ちません。

また、リズム芸人やギャグ芸人の中で、フリー・トークがつまらない人が多いことは偶然ではなく、「知の探索」の弱さが招いた結果だと考えています。

こうした芸人さん達の世界は、多くの企業がひしめくビジネスの世界で起きていることの縮図だとつくづく思います。

イノベーションを継続的に起こしていくためには、企業組織内で「知の探索」と「知の深耕」の両軸がバランス良く機能する必要があるという大原則をあらためて心に留め置きたいものです。

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