後継者不在を嘆くなら先ず同族承継へのこだわりを捨てること

経営脳のトレーニング
経営脳のトレーニング
この記事は約5分で読めます。

後継者不在は中小企業の7割弱が抱える問題

事業承継において後継者不在は、一番大きな問題です。2020年の帝国データバンクの調査によれば、国内企業の2/3にあたる65.1%が後継者不在だとしている。

なぜ、これほど多くの中小企業が後継者不在になるのでしょうか。それは、現経営者が同族承継をしようと考えていることが第一の原因です。そのため、子供が生まれれば小さいころから「将来会社を継げ」と刷り込む社長が多のです。

でも、人間は強制されれば反発したくなるのが常で、子供の頃から後継ぎというアイデンティティを与えられると、自分らしい自由な人生を選びたくなるものです。

結果的に、後継ぎとして教育にも十二分に金をかけられた子供は、優秀であれああるほど一流企業に就職したり、医者や弁護士を目指したりするケースが多発します。そして、親の思惑通りに自分の会社へ入る子供は、できの悪いどら息子ばかりということになりかねません。

ここまで決めつけた言い方をするのには理由があります。それは、私自身が二代目経営者だったうえに、大学時代の同期に跡取り息子が多かったという背景があるため、後継者の心理について知るところが多いからです。

だから後継者不在問題の多くは、「息子(娘)が会社を継ぐ気がないので」という枕詞とともに語られます。同族承継を第一に考えているから、後継者育成という時間も手間もかかる現経営者の責務の中で最も重要なことが後回しになるのです。

そして、当てにしていた子供からそっぽを向かれると、後継者不在という重大な問題に直面することになります。

同族承継にこだわるから後手に回る事業承継

後継者不在の問題を大きく変えるためには、同族承継を最初から考えるのを止めるべきではないでしょうか。

世界的に見て老舗企業が多い国として日本が評価されることも手伝って、家業としてのビジネスを綿々と続けていくイメージを経営者が持ちやすいのかもしれません。

この主張の根拠になっているのが、韓国銀行が2008年5月に発表した「日本企業の長寿要因および示唆点」と題する報告書において、世界中で創業200年以上の企業は5,586社(合計41カ国)あり、このうち半分以上の3,146社が日本に集中しているという調査結果です。

この調査結果は正しいとして、なぜ日本に老舗企業が多いのでしょうか。

その答は、同族承継に拘らなかったからです。より厳密に言うと、基本的に同族承継を考えていたが、現在のやり方とは異なっていました。江戸時代の商家の考え方は、無条件に男系子息に経営を引き継ぐのではなく、最も優秀な番頭と娘を婚姻させることで、血統の永続性と経営の手腕を担保するという一粒で二度美味しいものだったのです。

冷静になって考えてみれば、古の商人の視点は合理的で現実的なものだと思います。家とか血の系譜は引き継ぎたいが、企業の持続性を高めるためには優秀な経営者が必要である。そのためには、息子に必ず経営を引き継ぐことに拘ることは、息子が常に優秀な経営者としての資質を持っている保証がない以上危険ですから。

だからこそ、血の系譜の存続は娘に託し、経営の手腕は外部調達するという、現代風に言い替えると、資本と経営の分離をする発想がすでにあったからこそ、老舗企業になり得たのでしょう。

社長が自分の息子に会社を継がせたいと考えるようになったのは、大東亜戦争後の僅か70年のことに過ぎません。

それでも、世の中全体が、右肩上がりで成長していた時代は、同族承継を第一にして、結果的にボンクラな息子が後を継いでも何とか会社が存続することができました。

しかし、付加価値の低い労働集約的な仕事がどんどん新興国へ流出して、日本の産業全体が情報産業化していく中、大志もなく能力も低い経営者が舵取りする会社は遅かれ早かれ潰れることになります。

経営者に求められる資質が30年前とは比べものにならないほど高度化しているのだから、仮に自分の子供が会社を継ぐと言ったとしても、その器にあらずということがどんどん増えるでしょう。

だとするなら、最初っから同族承継を考えることをやめて、次世代の経営者は一から見つけ育てるという方針で時間をかけて取り組みするしかありません。

そんな時間はないというなら、自分一代限りで会社を清算することも意味のある選択肢の一つです。

後継者が不在ならM&Aでどこかの会社に買ってもらえばいいという考え方は最近の流行ですが、特許に守られた技術があるような製造業ならいざ知らず、卸売業とか建設業のような受注型のオールドエコノミーに属する業種では、買ってくれるような会社は、そう多くないはずです。

最終的には清算する方向で経営をするなら、誰かに言われるまでもなく、無闇に借入金を増やすことも避けるだろうし、退職慰労金を確保するために内部留保の積み上げやオフバランスの資産の積み上げという真っ当な努力を自然とするようになり、自然と経営が健全化していくでしょう。

とにかく、最近事業承継というテーマは、相続にしろM&Aにしろ出口戦略をどうするかという観点で取り上げられることが多すぎます。

それはイコール考えていることが泥縄ということで、もっと早い段階で着手すべき課題であるという本質を忘れているということに他なりません。

事業承継成功のポイントは選択肢の多さ

事業承継に経営者がもっと早い段階で意識して取り組めば、選択の自由度が高まります。自由度が高いということは、それだけストレスが少なく、しかも選択した方針の成功率が高まるということを意味します。

そのうえで、なお結果として同族承継が行われることはあるでしょう。でも、おこぼれに預かったわけではない事業承継が行われていれば、企業にとっても前経営者にとっても現経営者にとってもハッピーなことです。

シェアする
TAISHIをフォローする

コメント