意思決定における最適化ルールと満足化ルールの違いと使い分けとは

経営脳のトレーニング
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「優柔不断」を嘆く人は多いが性格の問題ではない

私たちは、生活のいろいろな場面で選択を繰り返しています。

  • 冬物のコートを買いにアパレルショップに出かけたとき
  • 昼ご飯を食べようと中華料理店へ入ったとき
  • 年末年始休みの旅行パンフレットを手にしているとき

このような日常生活の場面で、即座に決められずに、「私は優柔不断だ」と思っている人が多いはずです。

日常生活の小さな選択に迷うことが多いのだから、より大きな課題に対して意思決定を求められる経営者が決断力不足を嘆くのは当然です。

だからこそ、本屋の書棚には「決断力」や「優柔不断」の言葉が入った本がズラリと並んでいるのですが、実際に本を手に取ってを読んでみると、決断力不足や優柔不断を性格特性の問題としていることが多いのです。

しかし、決断力不足を性格論で捉えている限り、自分の優柔不断を変えることが難しいことを認めていることになり、本を何冊読んでも決断力が身に付くことはありません。

とは言うものの、意思決定における優柔不断を考えるときに、性格論を完全に排除することはできません。

例えばMBTIなどによって分類される心的傾向によって、意思決定のスピードやプロセスに差があることを実際に感じる場面があります。

でも、意思決定の力を上げるという目的に照らせば、性格のようなコントロール不可能なことはとりあえず脇に置いて、自分でコントロール可能なことに集中する方が合理的なはずです。

そのために必要なことの一つが、意思決定には最適化満足化という2つのタイプがあることを理解して、適切に使い分けることなのです。

重要度と緊急度で変わる意思決定プロセス

日々の仕事で意思決定をするときに、具体的にどんなプロセスをとるでしょうか。

常に同じプロセスを採用しているわけではなく、意思決定の重要性緊急性に応じて、人はそのプロセスを使い分けています。

例えば、ネット通販でA4のコピー用紙が特売されていた場合、別のサイトではもっと安く売っているかもしれないけれど、これまでの購入価格と比較して十分お得と判断すれば購入の決定をするはずです。

一方で、数年に一度しか発生しない自動車の買い替えや事務所の移転となると話が変わります。

つまり、支払う金額の大きさによって重要度が変わってきます。

ただし、ある人物を役員に登用するかどうか、ある社会貢献活動を支援するかどうかなど、重要度は金額の多寡だけではなく価値観に関わることについては高くなります。

また、コピー用紙は在庫が無くなったので今すぐ買いたいと思っているので、何時間もかけて価格調査している暇はないという意味で、短時間での意思決定が求められます。

他方で、高額な商品を購入する場合には、今すぐ決める必要性が低いという意味で、時間をかけた意思決定をすることが可能です。

でも、真夏に事務所のエアコンが急に壊れてしまった場合などは、出費額が大きいにも関わらず、1日でも早く取り付けをしたいために短時間での意思決定が必要になります。

緊急度の方はは、金額の大きさに関わらず状況によって変わってくるものです。

このように重要ではあるけれど緊急性の低い意思決定では、情報をたくさん集め、複数の選択肢を設定し、評価項目に照らして選択肢に採点を加えるというプロセスを採用した慎重な選択が可能になります。

反対に、重要度とは関わりなく緊急性の高い意思決定においては、じっくり考えて選択している時間がありません。

意思決定の重要性や緊急性は、集める情報の量や意思決定にかける時間に密接に関係してくるのです。

意思決定における最適化ルールと満足化ルールの違い

私たちは選択肢を選ぶ視点として最適化ルールと満足化ルールの2つを使い分けています。

最適化ルールとは、文字通り、選択肢の中から最適なものを選ぶというものです。

これに対して、満足化ルールとは、最適という保証はなくても満足できるレベルに達していれば、それを選ぶというものです。

例えば、希少な商品の仕入に成功したので、販売して一儲けする場合のことを考えてみます。

最適化ルールに従えば、最高値で購入する相手を探して売ることになります。儲けるという目的に対して、最高値での販売は最も理にかなっているからです。

これに対して、満足化ルールでは、一定の利ザヤ(仕入値の50%とか100%など)が出たら満足するので、その売却益を得られる相手が見つかったら即座に取引が成立することになります。

この2つの方法を比べると、どちらが簡単な意思決定と言えるでしょうか。

当然、満足化ルールを使う意思決定の方が簡単です。どこまで高値で売れるかの調査や予測は必要ないからです。

しかも、仕入の倍掛けで売りたいと考えていても、いざ売り出して反応が悪いとなったら、途中で満足水準を下げることが可能なので、柔軟性が高いという利点もあります。

一方、最適化ルールを真面目に適用しようとすると大変です。

どこまでの高値だったら購入する相手がいるのか仮説を立てて、実際に検証のための調査を行う必要があります。

大量の情報を収集することになるでしょうが、本当にそんなことが出来るでしょうか。

最適化と満足化の使い分けは意思決定にかかるトータルコストで決まる

最適化ルールと満足化ルールの違いは分かったとして、いつどういう場合に使い分けをすればよいのでしょうか。

そのためには、意思決定にかかるトータルなコストを考える必要があります。

最適化ルールを採用すると、選択肢の生成・発見をして評価を行う一連のプロセスにおいて、十分な思考時間と費用を投入する必要があります。

つまり、意思決定の負荷とコストが高くなります。

一方、満足化ルールを使う場合は、意思決定のトータル・コストを低く抑えることが可能です。

でも、最適化ルールを適用するよりも、意思決定のは低くなる可能性があることを覚悟する必要があります。

したがって、満足化ルールを採用する場合は、意思決定の結果に最適を求めてはいけません。

そういう意味では、意思決定において最適化ルールを使うか、満足化ルールを使うか自体が一つの意思決定ということになります。

だからこそ、最適化ルールと満足化ルールの使い分けにについて、あらかじめ一定の基準を設けるとか、時間が許す場合はどちらのルールを選択するかの決定を慎重に行う必要があります。

人は楽をしたいために意思決定方法の検討を怠ることがある

しかし、人間は一度に扱える情報の量に限りがあるため、複雑な選択肢を前にすると、一刻でも早く選択肢を絞り込みたいという欲求が生まれます。

また、意思決定とは思考そのものなので、エネルギーを消費し疲労を感じる行動です。だから、なるべく思考の負荷を減らしたいという気持ちが人間に働きます。

そのため、本来は最適化ルールを適用した方がトータルのコストとリターンの衡量において有利な場合でも、安易に満足化ルールを適用してしまうことが多々あります。

その典型的な例が、自らの意思決定プロセスを放棄して、他人に答を尋ねるという行動です。

でも、重要な問題について安易に他人に答を求めた結果、いろいろな意見に出会い、かえって思考する量を増やしてしまうという悪循環に陥いるのです。

さらに言うと、決定ルール以前に、意思決定をする対象を定義するのは、それほど簡単なことではありません。

例えば、今日の昼飯をどの店で食べるのかを決める場合、コストパフォーマンスを基準にするのか、自分の気分を基準にするのか、ダイエットに役立つかどうかを基準にするのか、といった具合に意思決定の対象そのものに複数の選択肢が存在します。

つまり、意思決定する対象を決めること自体が意思決定の対象であり、想像力や創造性が求められます。

どの意思決定方法を採用しても、結果を評価することが難しい

多くの人は、自らを優柔不断だと思い意思決定が出来ないことを嘆いていますが、スピーディーに意思決定が行われたとしても、採択された結果が優れたものかどうかは別問題です。

前段で指摘したように、そもそも意思決定する対象自体を間違っている可能性すらあるからです。

何れにしても、意思決定自体を評価するために結果についてのフィードバックが必要ですが、フィードバックを評価するうえで必要な評価基準をどう定めるかも意思決定の対象なのです。

意思決定方法を選択して決定をした結果が失敗だったとしても、何が悪かったのかがはっきり分からない場合、意思決定を反省するのために必要な評価基準を設定する意思決定が出来ていないことを疑う必要があります。

そして、反省という行為も判断を伴う思考活動なので、想像するほど反省から意思決定の学習をすることは難しいのです。

経験を積み重ねるだけでは意思決定能力は高まらない

多くの修羅場をくぐり抜け、たくさん経験を積めば、意思決定能力は高まると信じている人がいますが、それは違います。

もし経験によって意思決定能力が向上するなら、40代以上のビジネスマンは全員意思決定の達人ということになります。

意思決定に対する十分な努力をせずに、結果だけで意思決定の是非を評価していると、いつまでたっても真の意思決定能力は向上しなうえ、不安や後悔の怖れから解放されません。

積み重ねる経験を意味あるものにするためには、先ず意思決定のクライテリアの確立を行う必要があります。

どのような戦略や方法論を取り入れようとも、意思決定の質自体を上げていかない限り、そうした手段が本来持っている真価を発揮させることが出来ないからです。

そのために意識すべき視点は、「最適化」「満足化」というルールの使い分けに加えて、「ある意思決定をしていることは、それ以前の意思決定の結果である」というメタ意思決定の感覚です。

ある一つの意思決定とは、単層でストレートな思考活動ではなく、それ以前に複数の意思決定を経てきた複層的な思考活動であることを認識をすることが、意思決定の質を上げ第一歩なのです。

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