企業組織に必要な3種類の人材
別の記事で企業のナンバー2についての話をしました。
この中で、優れたナンバー2について以下の結論を述べました。
- 自分がナンバー1になる人は、先ずは自分自身を見つめ、得意不得意を見極めることで、必要なナンバー2を得ることを考える必要がある。
- ナンバー2を目指す人は、求められる絶対的な能力などないと知るべきだ。
- 先ずは自分の得意分野を見出し、逆にその分野を不得手とするナンバー1になる人を巡り会うようにすることだ。
- つまりは、ナンバー2にとって最初に不可欠な素質は、自分およびナンバー1の能力を客観的に分析する能力となる。
今回は、優れたナンバー2の定型的なタイプについて掘り下げてみます。
企業組織に必要な人材とは、以下の3つのタイプに大きく分けられます。
- 定型業務(ルーティン)を正確かつ迅速に行うとともに、たまに発生する非定型的業務についても対応可能な人材
- 非定型的な状況が発生した場合に、状況を的確に分析して、必要な対応策の立案、決定、そして実行をすることが可能な人材
- 全社あるいは事業の方針や将来像を思考し決断することが可能な人材
この3つのタイプは上から順番に、「現場に必要な人材」「管理職に必要な人材」「経営陣に必要な人材」を表しています。
優れたナンバー2は、この3つのタイプのどれに属する人材なのでしょうか。
ナンバー2とは、経営者を支援する役割を期待されているのだから、三番目の「全社あるいは事業の方針や将来像を思考し決断することが可能な人材」だと答えたいところですが、残念ながら違うのです。
経営トップが本来の仕事に注力するための条件
創造性を高め戦略的思考を巡らして、中長期的な時間軸で自社の青写真を描いていく、という経営トップこそが行わなければならない仕事で、社長が力を十二分に発揮するために必要な条件があります。
現場が定型業務を迅速かつ的確に遂行し、簡単な例外案件に対応できる力があるからこそ、ミドルマネジメントに携わる者たちは状況の分析と判断に時間をかけることができます。
したがって、現場の定型業務遂行能力が低下したり、例外案件の初期対応力が乏しくなれば、その分だけ管理者層の定型業務への関与が高まり、場合によっては経営トップまでが例外処理に追われ、最悪の場合は事件や事故処理に忙殺されることになります。
現場がしっかりしていて始めて、ミドルマネジメント層は現象の裏側に潜む本質を考え抜き、問題を未然に防いだり、抜本的なアイデアを思いついたりすることができるのです。
つまり、経営トップが戦略を思考する余裕を獲得するためには、現場とミドルが自分自身の仕事をきちんとやり遂げることが大前提です。
経営トップがスティーブン・コービーの『7つの習慣』で言うところの「重要だが緊急性が低い」事項に対して能力を発揮するためには、現場とミドル層の能力向上と対になっていなければ画餅に過ぎないのです。
だから、優れたナンバー2とは、本来経営者が取り組むべき仕事を直接的に支援する役割を担う人材とは限りません。
現場の定型業務を遂行する能力を向上させる役割を担う人材や、企業組織自体の運営や非定型的案件に柔軟かつ迅速に対応可能な人材は、優秀なナンバー2として社長に必要です。
特に、創業者社長が事業規模を拡大していく場合、社長はスーパーマンとして現場の定型業務遂行能力の向上役を担い、非定型案件への対応役も担っていることがはとんどです。
しかし、企業として次の一歩を踏み出していく局面で、創造力を働かせて中長期的に事業全体の戦略思考を行うという社長本来の仕事にシフトしていくためには、優れたナンバー2を据えることで、自分の職務に含まれるオーバーヘッドを取り除いていく必要があるのです。
したがって、優れたナンバー2のタイプは、自社の状況によって変わってくることになります。
社長自ら、現場のオペレーションが精確に機能するように鼓舞している会社においては、その役割を社長の代わり担う優れたナンバー2が必要でしょう。
また、社長自ら、総務・経理・人事に及ぶ管理業務を陣頭指揮している会社においては、その役割を社長の代わりに担う優れたナンバー2が必要になります。
さらに、現場を安心して任せられる人材がいて、社内のラインに関わる管理業務も任せられる人材もいるけれど、戦略的思考に不慣れだという社長の場合は、その役割のサポートをする優れたナンバー2が必要になります。
そういう意味では、ナンバー2は必ずしも1人に限られるわけではありません。
いずれにしても、前段であげた3つの人材のタイプの中で、自分の会社においてどのタイプの人材が不足しているのかについて、客観的な分析が最初の一歩になることは間違いありません。
優れたナンバー2を内部育成するか? ヘッドハンティングするか?
運良く自分の会社に必要なナンバー2のタイプが明らかにできたとして、次の課題は、「優れたナンバー2はどこにいるか?」になります。
でも実は、この課題の方が難しいのです。
もし、いつでも適切な人材を外部から獲得可能であれば、企業組織を現場、ミドルマネジメント、トップマネジメントと完全に三段階に階層化して、必要なときに必要な階層に必要な人材を投入すれば良いことになります。
アメリカのように外部の労働市場が流動的で、労働者は自ら投資して外部機関でスキルアップを図ることが暗黙の前提になっている場合は、各階層で固有の採用と配置を行うことが可能です。
しかし日本の場合は、アメリカと事情が異なります。
一昔前と比べると、終身雇用制は相当薄れてきたとはいえ、キャリアップの基本が内部昇進であることに変わりはありません。
特に中核的な人材に関しては長期雇用者からの選出がほとんどで、中途採用やヘッドハンティングによる獲得を考えている会社は極めて少ないのです。
だから今後しばらくは、ミドルマネジメントの多くは社内の現場から昇進していくるだろうし、経営層に加わる多くは社内のミドル層から内部育成されて昇進することになるはずです。
現場からミドル・マネジメントへ昇進するためには、先ずは現場における定型的業務の遂行能力が相応に高いことを示さなければなりません。
そしてミドル・マネジメントから経営陣に昇格させるためには、管理職として例外処理能力や分析・立案能力が相応に高いことを示さなければなりません。
しかし、現場仕事が得意だからといって、現場の人材教育とオペレーション改善を行う能力があるとは限りません。
同様に、ライン管理の業務で能力を発揮したからといって、創造性を活かした戦略思考ができる保証はありません。
このように、内部昇格によって優れたナンバー2を育てることは、口で言うほど簡単なことではないのです。
だからと言って、高額な費用を投資してヘッドハンティングした人物を招聘しても、力を発揮することなく早期退社する例を数多く目にしています。
転職市場においては、人材の価値を測量するために、職務遂行能力の高さに値段を付けようとしますが、結局のところそのベースとなる材料は過去の実績しかありません。
企業組織が機械のようなもので、その中の欠けた歯車を調達するという意味で人材を採用するならば、スペックだけで正確性の高い判断ができるかもしれません。
しかし、根本的に「企業とはなにか?」対する答えが時代とともに変化しています。
かつて企業は、取引費用理論から「市場取引ではコストがかかりすぎる部分を組織内部に取り込んだもの」とか、資源依存理論から「パワーの集合体である」とか、リソース・べースト・ビューやダイナミック・ケイパビリティから「経営資源の集合体である」と見なされていました。
ところが、最近になって価値源泉として企業のアイデンティティやビジョンの重要性が高まり、「企業とは経営者や社員がアイデンティティやビジョンを共有できる範囲である」という見方が強まっています。
その意味からは、優れたナンバー2を語るときに、仕事人としてのスペック以前に、自社の掲げるアイデンティティやビジョンを共有できるかどうかのチェックを避けて通ることはできません。
しかし、外部の人材について、数回の面接程度を行ったくらいでは、そのチェックが難しいということは、人材採用の経験豊富な経営者であれば周知の事実のはずです。
優れたナンバー2を内部育成するか、ヘッドハンティングするかについての一般解はないことになるので、自社にとって優れたナンバー2像を明らかにしたうえで、社内外に適合する人物がいないかどうか常にアンテナを張っておくことが大切になります。
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