税法にもとづく決算書で経営判断をするのは危険な理由

経営脳のトレーニング
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毎年決算書を作る目的を答えられますか?

法人として企業経営をしていれば、年に一度必ず発生するイベントは決算です。

実務的には税理士さん丸投げしている会社も多いでしょうが、ここで質問です。

税理士に毎月何万円かの顧問料と決算費用を追加で支払ってまで、年に一度決算書を作る目的は?

この質問に対する答えは大きく分けて次の2つのパターンに収束します。

  1. 税金を支払うため
  2. 経営の実態を数字で把握するため

しかし、決算書を作る目的は、本当にこの2つなのでしょうか?
あるいは、決算書は本当にこの2つの目的を達成するために役に立っているのでしょうか?

残念ながら、決算書はこの2つの目的のために役立っていません。

驚くほど少ない継続黒字企業

少し前の数字ですが、国税庁の2017年度分「会社標本調査」と帝国データバンクの「連続増収増益企業」調査(17,18年度決算)を見ると、以下の事実を知ることができます。

利益計上法人数 100万6,857社
欠損経常法人数 168万7,099社 全法人に占める割合 62.6%
2期連続増収増益法人数 約3万3,000社 全法人に占める割合 3.07%

この事実から分かることは、黒字企業の割合は、単年だと40%未満、2期連続だと約3%ということです。これが3期連続になると、約1%くらいまで企業数が少ないなると推察されます。つまり、世の中の約99%の企業は毎期黒字とは限らないということです。

そうなると、毎年決算書を作る目的「税金を支払うため」はおかしな話です。むしろ「税金を支払わないため」に決算書を作っているが実態ではないでしょうか。

しかし、多くの中小企業の法人設立目的が節税にあるのですから、「税金を支払わないため」に決算をしている実態は驚くことではありません。

平成20年度「会社標本調査結果」によると、1,000万円~2,000万円未満の資本金額の法人割合が87.8%を占めています。

実際のところ資本金が1,000万円~2,000万円未満法人のほとんどが1,000万円法人だと推察されるので、法人全体の8割以上が節税目的の1,000万円法人ということになります。

1992年に廃止された個人事業主向けの「みなし法人課税制度」の廃止が背景としてありますが、とにかく節税目的で法人を設立すれば当然、年間利益額を予測して、その利益がゼロに限りなく近付くように役員報酬の額を設定する経営者が多くなります。事実、税理士さんもそのように指導している場合が多いのではないでしょうか。

税金計算目的で作られた決算書を分析する意味はない

残念ながら、前項の事情で出来上がった決算書を分析する意味はありません。

厳密に言うと、税金を支払っていても、支払っていなくても「税金」を意識して決算をしている限り、決算書を精緻に分析する意味はありません。

なぜなら、税務会計とは、その文字が表すとおり税金を計算するための会計であるため、税務会計では、企業の経営実態を掴むことが出来ないからです。

ただし税法上、決算書を税金を計算するための基準だけで作成することを強制していません。企業には税務会計とは別に独自の経営実績の計算を求めています。

そのために、法人税は「法人税申告書別表4」で税務調整計算をするようになっています。

しかし、中小企業のほとんどは「法人税申告書別表4」による税務調整を実質的に行っていません。なぜなら、税法基準によって決算書を作成しているからです。

税金計算目的で作られた決算書が実態と乖離する6つの原因

税法基準で決算書を作成することで、経営実態と乖離する原因は6つあります。

  1. 減価償却資産の耐用年数
  2. 一括償却資産の存在
  3. 貸倒損失の計上基準
  4. 繰延資産の存在
  5. 棚卸資産の評価基準
  6. 遊休資産の評価

一例として、減価償却資産の耐用年数について、外食業X社が営むY店舗の資産台帳を元に考えてみましょう。

資産台帳は税法で定める耐用年数を採用している。

建物の耐用年数:20年
空調設備の耐用年数:15年

オープンから6年が経過し、開業費(繰延資産)の定率償却が5年で終わっているため、今期は毎月利益がコンスタントに出ている。

毎日フル稼働している空調設備の痛みが目立ち始めたので、2年以内にリニューアルを行う必要がある。

はたして、Y店舗は儲かっていると言えるのでしょうか?

もし、税法の定めではなくX社独自に5年で建物や空調設備の減価償却を行っていたら、毎年の減価償却額が現在の3から4倍になるため、Y店舗の採算性は極めて低い可能性があります。

このように減価償却資産の耐用年数は、企業の利益額に大きな影響を与えますが、税務上の耐用年数は間違いなく実際の耐用年数より長く設定されています。

課税側の立場で考えれば、耐用年数を長めに定めることは当然です。なぜなら、その方が所得を大きくしてより多くの税金を徴収できるから。

減価償却資産の耐用年数以外の他の5つの原因についても、税法が定めるところは損や経費はなるべく認めずに、なるべく多くの利益(税法では所得)が上がる方向で決められています。

つまり、税法基準によって作成された決算書や月次試算表などを見たところで、経営実態を正確に把握することは不可能なのです。

さらに税法基準による会計という問題に加えて、前項で述べた節税目的で役員報酬を過大に計上している中小企業特有のバイアスがかかった決算書をベースにして、経営分析や財務分析をしても実態把握には役立たないことが多いのです。

その他にも、建築会計を取り入れている企業の場合、工事進行基準での売上計上割合によって決算内容はずいぶん違ったものになってきます。

事業計画における利益をどう算定しているか

税理士や経営コンサルタントなどの専門家の多くは、事業計画(あるいは経営計画)の重要性を主張します。

しかし、事業計画を策定する際に重要なことは、利益をどのように算定しどのようにモニターするかという最も基本的方針の部分にあるはずです。

それにも関わらず、税法基準で作成された決算書の数字をベースにした投資計画(税法基準による償却年数を採用)で採算性を計算する意味があるでしょうか。

決算書は過去の結果を表しているに過ぎず、1年も前の事実をトレースしていることに価値はないという厳しい意見があります、税法基準とは異なる経営者の意思が反映された基準をもとに算定された決算書であれば意味があります。

同様に、事業計画も無いより有った方が良いという次元に留まらずに、意思を持った企業の未来像を描くにあたっては、数字によって語られる青写真は間違いなくあった方がいいでしょう。

そのためには、経営者自身の意思を反映した評価基準を持った事業計画である必要があります。

しかし、多くの経営者は、自社の会計に対して意思を持っていません。

将来のビジネスに対するビジョンは描いていても、将来のバランス・シートに対するビジョンを描いている経営者がどれだけいるでしょうか。

税法を基準とした決算書を財務分析したり投資計画を策定しても、そこには経営者としての意思はないがゆえに意味がありません。

財務分析をしたところで業界の平均値を基準として自社を評価するだけでは、データを集めればそこに何か答が見えるはずだと考える意思なき経営に過ぎません。

財務分析とは、目指すべきバランス・シートの形とそれを可能にするための損益計算書を自ら定義し、それを基準として行ってこそはじめて意味が出てくるものです。

同様に、事業計画とは売上高と利益額の予測をするものではありません。ストーリーとしてのビジネスシナリオが存在し、同時に目指すべき財務体質を実現するための具体的施策が含まれている必要があります。

つまり、経営者としての意思があってこそ財務分析も事業計画もその真価を発揮するものなのです。

経営判断を的確に行うため必要な独自の会計基準

経営者の方は、自社の決算書を見て「法人税申告書別表4」にて所得額の調整を行っているかどうか、先ずは確認してください。

もし、決算書の利益≒税額計算上の所得であるなら、経営の実態把握が出来ていないうえに意思を持った企業の未来像も描けないという意味において、極めて危険な状況です。

今現在好調だとしても、果たしてその儲けは本当の儲けでしょうか。

多くの場合、薄氷の儲けなのです。だから、好調を経験した企業ほど、成功体験が足かせとなって転落が早くなるのです。

経営の実態把握と将来的な企業像を描くにあたって、その企業独自の会計基準づくりを必ず行いましょう。なぜなら、これからの経営とは意思を持って行うべきものだからです。

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