変化するブランド価値~「みんなのブランド」から「わたしのブランド」へ

競争優位・差別化
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これまではブランドはステイタスを売りモノにしていた

これまで「ブランド」とは、原則的に高級品にとって意味のある付加価値でした。

そのため、貧乏人には買うことが出来ない高級品は、購入可能なお金持ちにだけブランドを認知してもらえればよさそうですが、それは違います。

高級ブランドは、なるべく多くの人に認知してもらう必要があるのです。

なぜなら、高級ブランドを手に入れたい人にとって重要な付加価値は、「ステイタス」だからです。

せっかく、真っ赤なフェラーリに乗っていても、街行く人に「騒々しい音のする面白い形の車」としか見てもらえなければ、何千万もお金を払う意味が半減します。

ちなみに、週末の銀座中央通りにはよくランボルギーニ・アヴェンタドールSが現れるのですが、マフラーを社外品に換装して爆音を撒き散らしながら、意味もなく行ったり来たりを繰り返しています。あれなどは、完全に超高級なスーパースポーツカーを乗り回している自分に注目してもらいたいに違いありません。でも、ランボルギーニのアヴェンタドールSだと分かる人はほとんどいないので、本人の期待は見事に裏切られて、「うるせー車だな。高そうな車をそんなに見せびらかしたいのかよ。子供っぽい人だな」くらいにしか思われていません。

それを避けるためには、直接商品を買ってくれる顧客だけではなく、世間一般の人々にもブランドを知らしめ、その価値の高さを植え付けておく必要があるのです

「みんなのブランド」から「わたしのブランド」へという変化

しかし、今やブランドは高級品だけのものではありません。

新しい時代のブランドにとって、ステイタスは二の次です。それを選択するユーザーがいいと感じるものであれば、周りからどう思われようと関係がないのです。

「みんなにとってのブランド」ではなく「わたしにとってのブランド」という変化が起きているからです。

だから、中小企業にとっても「ブランド」が必要になってきました。

対象とする顧客層をできるだけ絞り込む

中小企業におけるブランドづくりで特に大切なことは、「顧客をがっちり掴みたいならば、絶対に対象を拡げてはいけない」ということです。

「誰に」を考えるときに、対象とする顧客層(ターゲット/セグメント)を広げず、むしろできるだけ絞り込むこと。

ただし、対象とする顧客を絞り込むとは、企業側でお客さんを選り好みすることだという勘違いをしてはいけません。

自分たちがこだわりを持っているポイントを明確にして、それをわかりやすく伝えることで、対象とする人々が見つけやすくするとともに、対象としない人々が間違ってアプローチしてくることを防ぐことに意味があります。

例えば、食べログの安くて美味い大衆居酒屋の口コミ欄で、接客や気配りが悪いことを理由に低い点数を付けているレビュアーを見掛けることがあります。

そういう千ベロに支持されている店に対して、「注文を聞きに来るのが遅い」とか「皿の置き方がぞんざいだ」といった部分を過大にマイナス評価して、低スコアを付ける客は評価基準がズレています。

一方、店の側にも問題があります。「当店は、接客は二の次ですが、美味しい酒と料理をお安く提供して満腹になってもらえる点では一流です」というこだわりを明確に打ち出していないために、筋違いの客を呼び込み不満を持たれているからです。

万人を満足させることを捨て去ることから始まるブランドづくり

「何を好きか」「何を心地よいと感じるか」という基準は、人によって、あるいは状況によって大きく異なります。

だから、すべての人を常に満足させることはできないと割り切り、絞ったたった一つのベクトルに注力して、徹底的にこだわる。これが、これからの時代のブランドのあり方なのです。

打算ではなく「好き」を源にして生まれるリアリティのあるブランド

そしてもう一つ忘れてはならないこと。それは、これからの時代のブランドに必要なのは、リアリティ(実感)です。

これまでは、人がやりたがらないこと、自分もやりたくないこと、それを我慢して一生懸命やるから金を稼ぐことができるのだ。そう頑なに信じている中高年のビジネスマンは多い。

今後も、そうやって成立するビジネスがなくなることはないでしょうが、ブランドを意識するビジネスにおいては、提供している側の自分が楽しい、胸躍る。その思いが顧客へ伝わるかどうかで、ブランドが本物かどうかの分かれ道になります。

他社がうまく行ったから、うちの会社でも真似してみる。こういうやり方は、これからのブランドを活かしたビジネスでは通用しません。

なぜなら、提供する側がビジネスライクでやっているのか、本当に好きでやっているのかが、すぐに顧客にバレてしまうからです。

顧客は、どうせ買うなら、マニュアル通りに作り笑顔で接する人より、その仕事が好きで生き生き振る舞っている人から買いたいと思う。

ニーズに応え、機能やスペックで納得させるビジネスではなく、提供する側が欲しいモノを扱い、自分が魅力的だと感じるポイントを伝えることで、同じ価値観を持った人が集まり、好きが見事に伝染していく。

だからこそ、「自社の商品・サービスに惚れ込むこと」が、これからのブランド経営において重要だ、というより不可欠だという理路は、きわめて自然な流れなのです。

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