数列に隠された法則はなにか?
以下の3つの数字によってできている数列が、どんな法則によって並べらているか考えてみてください。
2 4 6 |
ある分かりやすい法則を思いついたはずです。
つぎに、考えついた法則にもとづいて、3つの数字からなる数列を自分でつくってみてください。
10 12 14 |
ではもう一度、別の3つの数字からなる数列をつくってみてください。たとえば、このような数列を考えることができます。確かに、この数列は[2 4 6]の数列に設定された法則に従っています。
こんどは、ちょっと数字を大きくしてみます。
116 118 120 |
この数列も[2 4 6]の数列に設定された法則に従っています。
最後にもうひと組、別の3つの数字からなる数列を作ってみます。
1348 1350 1352 |
やはり、この数列も[2 4 6]の数列に設定された法則に従っています。
では、その法則とはなんでしょうか?
連続する昇順の偶数
残念ながら、この答は間違っています。
ウェイソンの選択課題
3つの数字からなら数列の法則を当てる前段の話は、1966年心理学者P・C・ウェイソンが発案したロジッククイズとして有名です。
この実験で、正解にたどり着いた被験者は、ほとんどいませんでした。
多くの人がたどった思考検証プロセスとは、こんな感じだったはずです。
[2 4 6]という数列を見た9割以上の人は、「連続する昇順の偶数」という仮説を立てた。 ↓ 仮説の確認のため、数列[10 12 14]を作り判定を求めたらOKだった。 ↓ 「連続する昇順の偶数」という仮説が正しい可能性が高まったと考えた。 ↓ 仮説に従って、さらに[116 118 120]という数列を作り判定を求めたらOKだった。 ↓ [連続する昇順の偶数]という仮説の正しさに確信を持った。 ↓ ダメ押しのため3回目に[1348 1350 1352]という数列を作り判定を求めたらOKだった。 ↓ 仮説の正しさは完全に証明されたため、「法則とは、連続する昇順の偶数です」と答えた。 |
数列に適用されていた法則は、「昇順にならんでいる数字」というより単純なものに過ぎませんでした。
判定用の数列の提示回数が3回では少ないという可能性があったので、何回でもよいという条件緩和をして実験をしても、正解者は10%に満たなかったという結果が出ています。
「昇順に並んでいる数字」という数列の法則に気づくことは、「連続する昇順の偶数」という仮説を持ったとしても、数列判定の機会に、あえて仮説とは異なる数列を提示するという試みなしでは不可能なのです。
たとえば、偶数にこだわらない昇順の数列[54 56 61]を示してOKをもらうとか、降順の数列[5679 5432 2231]を示してNGをもらうとか。
そこで、ウェイソンの選択課題から、以下の教訓を得ることができます。
意志決定の質を高めるためには反証探しが大切
ウェイソンの選択課題の結果から分かることは、なんらかの法則を頭に思い浮かべると、自分の仮説に合わない事例ではなく、合う事例ばかり作り、自説の正しさを執拗に確認するという人間が持つ傾向についてです。
しかし、この傾向はクイズの世界だけに留まる話ではありません。
経営における意思決定において、最初に戦略や仮説を立てると、それを裏づける事実をたくさん集めて正当性を証明したと考えて、安心していることが圧倒的に多いのです。
それは、自分の話や世界観を裏づける例をすぐに探すクセとも言うべき悪習です。
例えば、これからの時代は「BtoBよりBtoCである」とか「安売せずに高価格政策をとる」とか「時代に乗り遅れないためにEC(エレクトリック・コマース)に進出する」とか、それ自体良くも悪くもない仮説なり戦略があります。
自社でこれらの方針を決定するときに、裏づけとなる事実やデータをたくさん集めてきますが、BtoCの失敗例とか高価格政策の落とし穴とかECの問題点とかを同時に探して検証する、というプロセスは、驚くほど軽んじられているはずです。
これも人間の認知上のバイアスのひとつですが、「人は、全体から個を推論することには不熱心だが、反対に個から全体を推論することには熱心である」という事実があります。
言い替えると、驚くような統計的数値(企業の生存率:設立10年=40% 設立30年=0.02%)を示しても、人は何も学びません。自分の会社には関係がないことだと、ほとんどの社長が思っています。
しかし、驚くべき個別の事例(倒産間際からの奇跡の復活劇)には反応し、ただちに一般化して、成功の秘訣だと考えます。
そんな屁理屈をこねるな!という返す刀があるかもしれませんが、少なくとも当選確率が2千万分の1の宝くじを買っている方は、反論できないはずです。
話を戻すと、あえて反例を探し、それを積み重ねることで、はじめて我々は真理に近づけるのです。裏付けをどんなに探しても意味がありません。
だから、仮説や戦略の検証の裏づけ集めだけで満足している経営者には、「想定外」「青天の霹靂」という事態が遅かれ早かれ訪れることになるでしょう。
おまけ-タイタニック号船長の過信
私の50年になんなんとする海上生活について述べるならば、 全く平穏無事な生活であったと言えよう。
話に値するようなどんな種類の事故に巻き込ま れたこともないし、遭難に会ったことも、勿論遭難したこともない。
また、どんな種類で あれ、海難が起こるような困難な状態になったこともなかった。
-- タイタニック号船長 エリオット・ジェームス・スミス
タイタニック号の出航前に新聞社とのインタビューで、自信満々に安全航行実績を語るスミス船長ですが、実は反例はたくさん存在していました。
- <ジャ-マニック号船長時代> ニュ-ヨ-ク港で桟橋係留中、甲板上に氷結した氷の重みで本船を転覆
- <オリンピック号(タイタニック号同型船)初代船長時代> ニューヨークで着岸する際、自分の船のプロペラにタグボートを巻き込んで大破/イギリスのサウザンプトンを出港時、ワイト島付近の狭い水道で巡洋艦と衝突、右舷後部に大きな損傷/大西洋の真ん中でプロペラを脱落
タイタニック号が安全に処女航海するに違いないという仮説に対して、船自体が不沈船と呼ばれる安全設計だったこと、自分自身が名船長であるというアイデンティティによって十分に裏づけは取れたと信じ、タイタニック号が沈没する可能性について反証探しはされていなかったと推察します。あるいは、意図的に無視されたと。
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